(ハーバード大学病院使用)

医療事故:真実説明・謝罪マニュアル

「本当のことを話して、謝りましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

When Things Go Wrong

Responding To Adverse Event

A Consensus Statement of the Harvard Hospitals

 

 

 

 

翻訳:東京大学 医療政策人材養成講座 有志

「真実説明・謝罪普及プロジェクト」メンバー

2006年11月16日
翻訳チーム メンバー (50音順)

本文書の翻訳は、東京大学 医療政策人材養成講座 有志によって行われました。

 

阿部 康一(1期生)(医療事故市民オンブズマン・メディオ代表)

岡田 弥生(2期生)(杉並保健所、歯科医師)  

加部 一彦(2期生)(愛育病院新生児科、医師

梶尾 裕(2期生)(国立国際医療センター 内分泌代謝科、医師) 

小竹 朝子(2期生)(ジャパンタイムズ 編集局 記者)  

小谷 幸(2期生)(社団法人日本看護協会 政策企画部) 

斉藤 安希(2期生)(財団法人 日本医療機能評価機構 認定病院患者安全部)     

千種 あや(2期生)(国立保健医療科学院 政策科学部 協力研究員)

津村 和大(2期生)(川崎市立川崎病院 内科、医師)

長谷川 幸子(2期生)(日本医科大学付属病院 医療安全管理部、医療安全管理者)

浜田 淳(1期生)(信州大学教育特任教授)

細川 幸子(2期生)(慶應義塾大学医学部・事務職員)  

山田 奈美恵(2期生)(朝日生命成人病研究所 循環器科、医師) 

吉岡 友治(1期生)(著述業、VOCABOW小論術校長)    

渡邊 清高(2期生)(東京大学医学部附属病院 内科、医師)

(チームリーダー)

埴岡 健一(東京大学 医療政策人材養成講座 特任助教授)(IZN01203@nifty.com

(事務局)

牧田 篝(1期生)(Medical cafe主宰 医療コーディネーター)(kagari-m@tkc.att.ne.jp)

 

*東京大学 医療政策人材養成講座 http://www.hsp.u-tokyo.ac.jp/

 

*本翻訳の教育目的・非営利の利用を許諾します。営利目的にはいかなる形態においても、その複製や利用を禁じます。

●原文はこちら

When Things Go Wrong Responding To Adverse Event A Consensus Statement of the Harvard Hospitals

http://www.macoalition.org/documents/respondingToAdverseEvents.pdf

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目次

 

・翻訳チーム メンバー                                                2p

 

●目次                                                               3p

●まえがき                                                           4p

●はじめに                                                           5p

1  定義                              9p

 

1部 患者さんとご家族の経験                                       12p

2章 患者さんとご家族とのコミュニケーション              12p

3章 患者さんとご家族への支援                   23p

4章 退院後の患者さんとご家族の支援                              28p

 

2部 医療従事者の経験                                             30p

  5章 医療従事者への支援                                          30p 

   6章  訓練と教育                                                  33p

 

3部 医療事故の管理                                               36p

  7章 病院のインシデントに対する理念の要素                        36p

  8章 医療事故に対する初期の対応                                  38p

9章 医療事故の分析                                              40p

10章 文書化                                                     44p

11章 報告                                                       46p

 

・付録A 患者さんとの対話事例                                      48p

・付録B  ある患者さんとご家族とのコミュニケーションの事例           49p

・付録C  医療従事者への支援の要素                                   51p

・付録D  コミュニケーションのための訓練                             53p

・付録E 米国医療機関合同認定委員会(JCAHO)選定 医療過誤開示 参考文献一覧55p

・参考文献                                                           59p 

・「真実説明と謝罪」に関するワーキング・グループ・メンバー          61p

・ハーバード大学関連教育病院一覧                         62p

 


まえがき

 

2004年3月、ハーバード大学関連病院だけでなく全米の病院でも、医療過誤や有害事象に関する患者さんとのコミュニケーションの仕方に大きな格差があるという報告が出てきたことに対応して、いくつかのハーバード大学関連教育病院、ハーバード大学公衆衛生大学院、リスク管理財団(ハーバード関連教育機関の医療過誤専用保険会社)に属するリスクマネージャーや医師のグループが集まって、この問題をめぐるさまざまな論点について検討と議論を行いました。その席で、こうした予期しない医療事故に対する病院の対処をあらゆる観点から考慮すること、また、重要な論点についてはエビデンスに基づいた声明文書を作成することが、有用であると意見の一致をみました。このワーキンググループは毎月の会合を経て急速に拡大し、患者さんや法曹界の代表も参加するようになりました.

 

その結果作成された文書は、すべてのハーバード関連病院に2005年4月に送付され、各病院で広く配布し、議論や批評、適切な修正を加えるよう依頼されました。目的は、もし可能ならば、すべてのハーバード関連病院とリスク管理財団が支持するような「コンセンサス(合意)文書」を作成すること、さらには、この文書が組織の具体的な行動や基本方針を作り出す基礎として役立つことです。

 

このコンセンサス文書案への反応は圧倒的に好意的でした。しかしながら、修正案もたくさんありました。特に、予防可能な有害事象と予防不可能な有害事象の区別や費用負担、研修に関しての提案がなされました。文書は、これらの変更を取り入れて改訂され、改めて全病院に配布されました。この完成版の理念と原理はすべてのハーバード関連教育病院により支持され、現在、各病院ではこの文書にある推奨事項を実現すべく、個別の指針や業務案を作成するために、この文書が使用されています。

 

この文書は、次の3部から成り立っています。

1部 患者さんとご家族の体験(2〜4章)

2部 医療従事者の体験(5、6章)

3部 医療事故の管理(7〜11章)

 

各々の章は、次の3つのセクションから成り立っています。

1 その問題に対する専門家によるコンセンサス内容のまとめ

2 そのコンセンサスの背後にある理由付けと根拠

3 推奨されること

 


はじめに

 
21世紀に入ってから米国では、医療過誤や民事訴訟制度改革に関する論争が、ますます注目されるようになってきました。患者さんや政治家、政策立案者、医療専門家は、社会に衝撃を与えている医療過誤の広がりや結果(ニアミスで済んだか、患者さんに危害を与えたかにかかわらず)に取り組んでいます。医療過誤訴訟の損害賠償金の上限を法律で定めることから、不都合なインシデント(医療事故)(入院、外来のいずれの状況のものにかかわらず)に適用する倫理的および道徳的義務まで、さまざまなことが議論になっています。
 
医療過誤の損害賠償金額への恐れと悪い知らせを伝達する難しさ、因果関係と責任――に関する混同があったために、これまで長い間、患者さんやご家族、医療従事者が医療過誤の際に経験することを、包括的かつ大胆に変えていく動きが生まれませんでした。しかしながら、昨今の論争や探求によって,過誤が生み出される環境を調査することができるようになりました。また、大規模な変化の影響を生じさせ、実践し、分析することもできるようになりました。このようにして、医療機関は患者さんの安全と医療過誤についての問題提起をすることができるのです。
 
このコンセンサス(合意)文書は、大多数の病院が現在、実際に選択しているやり方とは全く異なる医療機関の対応の仕方について、潜在的メリットとリスクについて考察します。そして、迅速かつオープンな情報開示と、重大なインシデントを体験した患者さんやご家族への心情的支援に焦点を当てています。さらに、そのようなインシデントに関わった医療従事者を支援、教育する方法を提起し、組織としての包括的な基本方針の事務管理的な構成要素の枠組みを示しています。
 
この文書の目的は、基本方針についての合意事項を成文化することであり、個々の病院がこの基本理念を実行するための具体的な指針を作り出すために使用されることです。ただし、政策例や実践例を規定することが目的ではなく、むしろ現場の工夫や幅広い提言が実践されることを促していくものです。最終目的は、臨床現場の医療従事者や病院が、自らの手で分かりやすく、詳細で、明快かつ効果的な指針を開発するよう促すことにあります。そうすることで、こうした事象が生み出し、常に存在するようになっている苦悩に対処したり、予防したりすることができるのです。
 
背景
米国医学療研究所 (Institute of Medicine=IOM) は、1999年の画期的な報告書『人は誰でも間違える』 (To Err is Human。邦訳、日本評論者刊) において、医療行為による傷害が、予防可能な死の主な原因であると断言すると同時に、医療過誤の削減を医療政策の優先課題とすることを求めました(文献1)。IOMは、「システム的な欠陥が過誤や事故の主要因である」という他産業での教訓から学ぶよう強く訴えました。さらに、IOMは医療機関に、システムを改革することにより医療の安全性の向上を大いに推進するよう、強く勧告しました。これに答える形で、医療システムを改革する大規模な国家的運動が始動したのです。
 
IOMは、前書を受けた報告書『医療の質−谷間を越えて』(Crossing the Quality Chasm。邦訳、日本評論社刊) において、医療改革に向けて 6つの目標を提案しました。この報告書が医療機関に求めたものは、「安全で」「効果的で」「患者本位で」「タイミングよく」「効率よく」「公正な」、医療の供給です(文献2)。そして、病院に患者さんの利益を最優先するように強く求めました。さらに、この報告書は、医療機関のインシデントへの対応の仕方が、その組織が「学習する組織(learning organization)」に進歩できるかどうかを決めるという考えを提案しました。
 
基本方針
インシデントに対応するにあたって、本書が勧告する2つ基本方針は、@医療は安全でなければならないA医療は患者さん本位でなければならない――の2点です。
 
「医療は安全でなければならない」
病院は、「学習する組織」にならなければなりません。「学習する組織」とは、ピーター・センゲ(Peter Senge)(訳注:米国の経営学者)の定義によると、「己が心から望む成果を創造するために、継続的に己の能力を発達させる組織」です。私たちは、妥協することなく自己を点検し、継続的に改善することを自らに課さなければなりません。間違った方向にものごとが進んだ場合、私たちは2倍の義務を果たさなければなりません。すなわち,被害を受けた患者さんのケア、そして、自分たちのシステムを変更して医療過誤の再発を防止することです。
 
「医療は、患者さん本位でなければならない」
インシデントの事後対応においては、被害を受けた患者さんを支援し、患者さんを癒すことができる関係を維持することを、主たる目的としなければなりません。患者さんとご家族には、インシデントの詳細とその意味するところを知る権利があります。コミュニケーションはオープンで、タイミングよく、継続して行われるべきです。患者さんとのコミュニケーションを促進するためには、秘密主義的あるいは責任関係だけに焦点をおいた、敵対的な関係をとることは避けなければなりません。医療従事者の役割は、悲しみを和らげ支援すること、そして、患者さんが心から求めることに気を配ることです。オープンさと協調関係は、きわめて大切です。
 
この文書では、倫理的な議論をしているのであって、ビジネス事例や根拠に基づく臨床ガイドラインを扱っているのではありません。臨床的実践の裏づけとなる論文になったデータや経験に基づく証拠がある場合は、それらを引用していますが、あくまで、われわれの主たる正当性の根拠は、倫理なのです。私たちは、完全なる情報開示を約束します。なぜなら、それが「なすべき正しいこと(right thing to do)」であるからです。患者さんとご家族には、何が起きたか知る権利があるのです。付け加えて言うならば、正直なコミュニケーションが患者さんと医療供給者間の信頼関係を向上させるからこそ、患者さんのケアを、医師・患者関係の主要な関心事にしておくことができるのです。さらには、医療過誤に関してオープンに対話することによって、医療従事者が再発の可能性を最小化するシステム的な改善を探求することを奨励し、患者さんの安全性を向上させることができるのです。
 
医療機関はどのように対応すべきか
重大なインシデントが起こったならば、それをきっかけに連鎖的な対応をしなければなりません。第一に、その患者さんに対するさらなる害をできる限り最小限にとどめ、苦痛を軽減することに関心が払われなければなりません。次に、証拠を保護するために、医療機関は即座にインシデントに関係した薬剤や装置、記録を保全しなければなりません。医療チーム、それを担当すべき事務部門、病院上層部のメンバーは、即座にインシデントが発生したことを知る必要があります。できるだけ速やかに、その患者さんとご家族は、インシデントが発生したことと、その時点で分かっている事実を知らされなければなりません。患者さんとご家族には、多くの場合、心情的かつ心理的な支援が継続的に必要です。そして最後に、医療記録にはこうした一連の行為がすべて明確に記述されなければなりません。
 
事故のタイプによっては、医療従事者にも支援が必要となるかもしれません。できる限り速やかに、その臨床に関連したすべての関係者が事故の分析に参加し、内在するシステムの欠陥を調査しなければなりません。分析の目的は、事故に関わる背景を十分に理解し、事故に至った要因を特定し、再発防止を促すシステム改善のための実践的な勧告を作成することです。フォローアップ会議においては、適切なスタッフが、分析結果や修正計画を伝達しなければなりません。その後のことに関しても、医療機関や医療従事者がどのように対応するかに焦点を当て、これらの要素の一つひとつを吟味していきます。
 
私たちは、これらの課題について「自分に対する治療で自分が被害を受けたら、どうしてほしいか」と自問しながら、患者さんの視点で取り組んでいます。法的責任に関する法律的な問題を含め、病院と医療従事者の利害が対立する場合、私たちが振り返る基本的な枠組みは、「なすべき正しいことは、何か(What is the right thing to do?)」という単純な問いかけなのです。

1章 定義

 

 医療のケアの悪い結果を表すのに多くの用語が使われ、それが、しばしば混乱をもたらしてきました。例えば、米国医療機関認定合同委員会(JCAHO、Joint Commission on Accreditation of Healthcare Organizations)は、その情報開示理念において、治療の合併症を病気の合併症と区別しようと試み、「予期せぬ結果」を患者さんに説明するよう求めています。それでも、これによって、術後感染症のような治療の結果しばしば起こると知られている合併症に関しては、「予期されたもの」で情報開示の必要はないという議論を引き起こします。

 

もう一つの混乱のもとは、傷害(injury)と過誤(error)という用語を混同して使ってしまうことです。混乱を避けるために、本論では、米国ヘルスケア・リスク・マネジメント協会(ASHRM、American Society for Healthcare Risk Management)の下記の定義を用います。

 

有害事象:患者さんのもともとの病気によるというよりも、医療行為によって引き起こされた傷害。「害(harm)」「傷害(injury)」「合併症(complication)」とも言います。

 

・有害事象には、過誤に起因する場合と起因しない場合があります。さらに、予防可能な有害事象や予防不可能な有害事象の分類については、下記を参照してください。

 

・「医療行為(medical management)」とは、医師や看護師の行為や決定だけでなく、ケアのすべてにわたる局面のことを示します。

 

医療過誤:計画された行為を意図したとおりに遂行しようとして失敗すること、または目的を達成しようとして誤った計画を採用することです。医療過誤には、深刻な過誤も、軽微な過誤も、ニアミスも含みます(注:医療過誤は、害を起こすことも起こさないこともあります。害を起こさない医療過誤は、有害事象とはなりません)。

 

さらに次のように定義します――。

 

深刻な過誤:永続的な傷害となる可能性があるか、一時的ではあっても生命を脅かすおそれのある傷害を引き起こす可能性のある過誤。

 

軽微な過誤:傷害を起こさない過誤、または傷害を起こす可能性がない過誤。

 

ニアミス:傷害を起こしえた過誤であるが、患者さんに到達する前に遮られたもの。

 

予防可能な有害事象:過誤またはシステム的な欠陥に起因する傷害(あるいは合併症)。個人の過誤は、往々にしてシステム的な欠陥の最終結果であることに同意できるにしても、それでも、患者さんにも医療従事者にも、個人の過誤はきわめて個人的な事故と認識されています。以下の3つの分類を区分することは有益です。

 

・タイプ1:主治医による過誤 

例:医療行為を遂行する上での技術的な過誤

 

・タイプ2:医療チームの医師以外のだれかによる過誤 

例:看護師による間違った投薬、レジデント(研修医)の技術的あるいは判断上の過誤、放射線技師による照射部位間違い

 

・タイプ3:個人の過誤を伴わないシステム的な欠陥 

例:輸液ポンプの故障による過剰投与、検査を指示した医師に異常な検査結果を伝えるシステム的な欠陥

 

予防不可能な有害事象:過誤やシステム的な欠陥が原因ではなく、最新の科学知識でも常に予防できるとは限らない傷害(あるいは合併症)です。これらは大きく2つに分けられます。

・タイプ1: よくある、よく知られた高リスクの療法。患者さんはリスクを理解した上で、治療による効果を得るためにそのリスクを引き受けます。 

例:化学療法の合併症

 

・タイプ2: 通常の医療行為でまれにしか起こらないが、知られているリスク。患者さんは事前に、もしかして起こるかもしれないと、知らされていることもあるが、知らされていないこともあります。 

 例:薬の副作用、ある種の術創感染

 

インシデント(医療事故):有害事象あるいは深刻な過誤。事故ともいいます。

 

情報開示:患者さんあるいはご家族、またはその両者に、インシデントについての情報を提供すること。この用語は、特権的な立場が限定的に保持している情報を暴露することを示唆したり、選択のために使うという側面の意味を含んでいます。よって本編では、コミュニケーションという用語で置き換えることにより、オープンさと相互関係の感覚を伝えることとします。

 

報告:内部または外部の適切な権限者に、有害事象や医療過誤に関する情報を提供すること(どのような事故を報告すべきかについての詳細は、報告に関する章を参照)。

 


1部 患者さんとご家族の経験

 

2章 患者さんやご家族とのコミュニケーション

 

インシデント(医療事故)発生後には、患者さんやご家族に対する迅速で、心情に配慮した、正直なコミュニケーションが重要です。残念なことに、これはインシデントへの対応として、最もおろそかにされがちです。

 

 これらの事故が患者さんと医療従事者の双方に及ぼす感情的な影響のため、コミュニケーションはすべての関係者にとって難しくなりがちです。コミュニケーションの失敗は、医療従事者と同様に、患者さんの傷を倍加させ、患者さんが医療過誤訴訟を起こす主な理由になっていると考える人もいます。

 

このこみいった問題は、3つの断面に分けて考えることができます。

A 最初のコミュニケーション

何が伝えられなければならないか、そして、いつ行われなければならないか。

 

B 最初のコミュニケーション

だれが、どのように情報を提供するか。

 

C 入院中のフォローアップのためのコミュニケーション

 

退院後のコミュニケーションとフォローについては、第4章で考えます。

 

 

A 最初のコミュニケーション 「なに」を「いつ」

 患者さんもしくは、患者さんとご家族は、どんなインシデント(患者さんに影響した、どの様な有害事象もしくは深刻な過誤)に関しても、十分かつ迅速に情報提供されなければなりません。患者さんと医療従事者の間には、軽微な(無害な)過誤を患者さんに知らせることは適当でないという暗黙の合意があります。ニアミス(危害を生じることがありえたが、実際には過誤が避けられた場合)は特別な例であり、個別に対応される必要があります。医療従事者と管理責任者は、情報提供の基準と、なぜそれが基準に選ばれたのかについて議論し合意する必要があります。これは難しい作業ですが、はっきりした一貫性がある組織の方針が求められます。

 

インシデントの発生は、それが確認され次第、また患者さんが身体的、精神的にその情報を受け取る準備ができ次第、直ちに患者さんに伝えられなければなりません。通常は、それを、事故が生じた後、24時間以内にしなければなりません。早く知らせるとことが、信頼を維持するために最も重要です。患者さんとやりとりすることが可能でない場合、最初のコミュニケーションは、さらに議論をする際に患者さんを代弁する立場にある、ご家族のだれか、もしくは医療に関する代理人と始めなければなりません。

 

最初の説明は、何が起こったのかと、すぐに現れる影響や予後を含め、患者さんに対しどのように影響するのか、に重点を置かなければなりません。医療従事者は事故の発生を認め、それが生じたことに関して遺憾の意を表明し、何があったかについて説明しなければなりません。明らかな過誤が発生した場合には、医療従事者は過誤の発生を認め、それに対する責任をとり、謝罪し、なぜそれが発生したのかを明らかにすることを確約しなければなりません。

 

医療従事者は、生じた傷害の影響を軽減するためになにが行われつつあるのかについての説明もしなければなりません。調査が終わるまでは、どのようにして、なぜ事故が起こったのかについての理由の説明は猶予されなければなりませんが、医療従事者は患者さんとご家族に対して、事故の原因が調査中であること、準備ができ次第、得られた情報が共有されることを知らせなければなりません。

 

理由付けと根拠

 患者さんとご家族に対するインシデントに関するコミュニケーションは、有害事象への医療機関の対応の、きわめて重要な部分です。率直で正直なコミュニケーションは、信頼を維持し、回復し、さらには、進行中の治療を適切に提供するためにも不可欠です。治療の提供に問題がなく、状況がよいときには、信頼を保つことは難しくありません。本当に試されるのは、関係をこじらせるような何らかの事態が発生した際にも、関係を保つという場合です。情報提供の過程がどのように行なわれたかは、患者さんとご家族の反応に大きく影響します。

 

 有害事象が生じていないときでさえ、多くの患者さんは、病気であることや、治療を必要とする状態であることによって弱気であると感じています。ですから、有害事象が実際に起こった場合には、患者さんはとりわけ激しい、あるいは複雑な感情的な反応を示す可能性があります。恐れ、不安、抑うつ、怒り、落胆、信頼の喪失、孤立感などが一般的な反応です(文献5、6)。そして、とりわけ精神的外傷性で生命を脅かしうる事故が起こった後では、消えない記憶、感情の麻痺、フラッシュバック(再体験)と言った反応が起こり得ます(文献6)。これらの反応は、事故が過誤に起因しなかったときでも、そして、インフォームド・コンセント(説明の上の同意)を得る過程で過誤発生の可能性について話しあった場合でも、生じる可能性があります。

 

 さらに、患者さんと医師、患者さんと看護師の関係は、有害事象が過誤によって生じた際にはしばしば難しいものとなります。患者さんは、彼ら自身が彼らを助けるように委ねた、まさにその人々によって、意図せずに傷つけられるのです。そして、有害事象発生の後で、患者さんは有害事象そのものに関係していた同じ医師によって、しばしば治療を受けます。例え医療従事者が同情的で、率直で支えとなるような場合でも、患者さんはこうした医療従事者について相反する感情を抱きます(文献6)。

 

インシデントに対する患者さんとご家族の反応は、インシデントそのものとインシデントの扱われ方の両方に影響されます。傷害について率直に認めること、敏感であること、良好なコミュニケーションを実行すること、ばん回策を上手に管理するといったことが、感情的な精神的外傷を減らす可能性があります。一方で、不適切あるいは無神経な対応は、さらなる精神的外傷を引き起こす可能性があります(文献5〜7)。

 

医学的文献の示すところでは、大部分の患者さんは有害事象を知らされたいと希望しています。米国の大学の内科外来診療所で行われた149例の患者さんの調査(文献8)で、患者さんは3つの医療過誤(軽度、中程度、重度)が起こった場合の想定シナリオについて回答をしました。98%の患者さんが、たとえ軽度であるとしても、過誤について知らせてほしいと希望しました。中程度と重大な過誤の両方のシナリオでは、医師が過誤を明らかにしない場合は、患者さんは有意に多く訴訟を考慮するという結果でした。

 

 英国のある調査では、92%の患者さんは、合併症が起こった場合は常に知らされなければならないと考えており、81%の患者さんは、合併症を知らされるだけでなく、起こりうる不都合な結果に関しても詳細な情報を与えられなければならないと考えていました(文献9)。医療過誤事件で法的措置をとっていた227例の患者さんとご家族を対象とした英国の調査では、原告は、より誠実に、患者さんが負った傷の重みを理解し、患者さんの体験が教訓として学ばれるという確かな約束を望んでいました(文献7)。

 

 医師の過失によって損害を受けた時、患者さんは傷つけられ、裏切られ、おとしめられ、屈辱的で、恐ろしいと感じる可能性があります。責任をとって謝罪することによって、医師は患者さんのこうした感情を認め、その影響を理解し、修復を始めることができます。謝罪は、患者さんの尊厳を回復し、癒しの過程が始まることを助けるのです。それはまた、医師が自分自身の精神的外傷に対処することも助けます。一方、過誤を認めて遺憾の意を表明することに失敗すれば、患者さんの状況を十分に尊重することができずに、「人を傷つけたうえさらに侮辱する」ことになります。

 

 医療機関のリーダーたちによる強力な支援と、明確に定められ、かつ合意形成がなされた方針や指示によって、一人ひとりの医師とリスクマネージャーの率直なコミュニケーションが、支えられなければなりません。病院の上級管理者に支えられていなければ、生じた問題に対して、医師が正直で率直であることは困難です。

 

推奨されること

医療従事者は、患者さんに影響する有害事象あるいは過誤はどのようなものでも、たとえ害がなかった場合でも、即座に患者さんやご家族に伝えるべきです。患者に影響が及ばなかった軽微な過誤は情報開示する必要はありません。ニアミスや未然に防げた重篤な過誤を話すかどうかは、個別に扱うべきです。もし患者さんがその過誤に気づいているならば、あるいはその過誤について知ることが再発を予防することに役立つことができるのであれば、患者さんに情報を伝えるべきです。コミュニケーション(情報提供)が求められるかどうかについて疑問があるときには、医療従事者は、内部の専門家、たとえばリスクマネージャーや医療安全責任者、上級管理者に相談すべきです。

 

医療従事者はインシデントについて、そしてその傷害を緩和し再発を予防するためになされていることについて、正直であるべきであり、情報を公開すべきです。うそ偽りのないコミュニケーション(情報提供)は患者さんに対する敬意を伝えます。医療事故を事実と認めないことは、患者さんにとって非常に苦痛でしょうし、苦情や訴訟の強力な刺激剤となります。

 

医療事故が明らかに過誤によるものではない(すなわち、タイプ1またはタイプ2の予防不可能な有害事象)ときや、原因が不明であるときは、遺憾の意を表明(「このようなことがあなたに起こって残念に思います」)し、何が起こったかを説明し、さらなる傷害を軽減するためになされることについて話し合うべきです。患者さんが、傷害が医療行為の失敗の結果ではなく、もともと存在していた危険性であることを、確実に理解できるようにすることが重要です。化学療法の場合(タイプ1)のように合併症の危険が高く、それが患者さんによく知られている場合には、これは比較的容易です。

 

もっとまれな予防不可能な医療事故(タイプ2)に関しては、たとえインフォームド・コンセントを得ることに十分な注意が与えられていたときでさえ、患者さんは多くの場合、最初の反応として、だれかが医療過誤を起こしたと推定します。したがって、たとえ医療従事者には非常に当たり前のことと思えるときでさえ、何が起こったのかについて十分で辛抱強い説明を行なうことが重要です。医療スタッフが傷害を真剣に受け止めており、それが生じたことを残念に思っていることを患者さんが分かるだけでなく、それを予防することが医療スタッフにできることではなかったことを患者さんが理解することが非常に重要です。

 

傷害が医療過誤によるものであるかどうか明確でないならば、医療事故はやはり事実として受け止められるべきで、前記のごとく遺憾の意を表明されなければなりません。しかしながら、すべての事実が判明する前に、早合点したり、自分自身やだれか特定の人を非難したり、医療事故の責任をとったりしないことが重要です。十分な調査を約束しなければなりませんし、それとともに、事実がより明らかになれば患者さんに報告することを約束しなければなりません。

 

医療事故が医療過誤あるいはシステム上の不備(タイプ1〜3の予防可能な有害事象)によるものの場合には、もっと十分な説明が必要であり、それだけでなく、謝罪および将来の患者さんに対する再発予防策の説明が必要です。だれが医療過誤を起こしたかとか何のシステムに不備があったかということにかかわらず、患者さんに情報を伝達する主な責任は、患者さんへの医療行為に責任がある主治医にあります。

 

 

〔要点1〕インシデント発生直後の情報公開についての一般原則

・インシデント発生についての事実だけを伝えましょう――すなわち、何が起きたかということを伝え、どのようにしてなぜその結果が起きたのかあなたが信じていることは伝えないようにしましょう。

・信頼できる情報が手に入ったときには、適切なタイミングで情報提供しましょう。

・さらなる診断や治療について、あなたが推奨することを説明しましょう。

・今後の予想される経過の見通しについて説明しましょう。

 

 

予防可能な有害事象について十分に情報を伝達するには4つの基本的なステップがあります。

 

1. 患者さんとご家族に、何が起こったかを話します。

今「何が」起こったかを話してください。「どのよう」にとか「なぜ」といった詳細については、後でいいのです(文献10)。有害事象の原因を確定するには注意深い分析が必要であり、時間もかかります。しかしながら、患者さんとご家族はすぐに返答を求めがちです。したがって、有害事象のすぐ後には、話し合いは既知の事実に限り、憶測は避けなければなりません。憶測や予備的な結論は患者さんやご家族によってしばしば確定的なこととして解されてしまいます。初めの印象がその後の注意深い分析でしばしば否定されるのが、インシデント調査の特徴です。もし憶測からの情報が患者さんとご家族に共有され、それが後に注意深い分析の結果で否定されたものであった場合には、医師は自分自身の間違いを正すことを余儀なくさせられます。そのことによって、医師の信用や、またその後伝えられる情報の信用に、疑いが投げかけられるかもしれないのです。有害事象の分析の結論や将来の有害事象予防のために推奨されるシステムの変更は、後にこの情報が利用可能となったときに、患者さんやご家族と一緒に話し合われなければなりません。一方で、患者さんがすぐに知らなければならない、すでにある情報を隠しておくことは、妥当ではありません。

 

2. 責任をとります。

インシデントが特定の行為の結果であるかどうかに関わらず、主治医は患者さんやご家族に対し自分が責任を負っていることを明言しなければいけません。有害事象の責任をとることは、医療事故について十分に情報提供することの基本的なステップです。患者さんが自分たちへの診療行為を委任している人物として、主治医は実際には傷害を引き起こす過ちを犯さなかったときでさえ、責任を負わなければなりません。有害事象に対する一切の責任や責務は病院にあるのです。したがって、重大な医療事故の後で、病院や病院幹部もまた責任を受け入れ、病院や幹部に責任があり遺憾の気持ちを持っていることを患者さんとご家族に伝える責任があります。すべての医療事故は2つとないものですので、病院幹部と医師は患者さんやご家族との情報伝達をうまく調整する必要があります。

 

少し考えてみると、医師が有害事象に関してまったくなすすべがないような状況において、その事故に責任を負わなければならないというのは変なことに思われるかもしれません。このような場合、責任をとるということは単に罪過を負うということを意味しているわけではありません。おそらく多くの要因が医療事故に関わっており、その要因の多くはだれにも統制できないものです。しかしながら、医療チームのリーダーとして、医師は当該の患者さんに医療を提供する医療システムになくてはならない部分です。患者さんやご家族が、医師が医療行為に責任がある人物であると考えることは理解できます。患者さんは、主治医に気遣いや慰めを当てにしており、物事を自分たちのためにうまく動かしてくれると期待しています。患者さんは、だれかが責任を持って状況を統制していることを知りたいと考えているのです。

 

医師や病院幹部が医療事故の責任を負うときには、将来の行動に対する責任を受け入れているのです。すなわち、医療事故の原因を見つけ出そうと試みたり、患者さんやご家族に情報を伝えたり更新したり、そして有害事象の合併症を監視したり管理したりします。彼らは、将来に同様な医療事故が他の患者さんに起きるのを予防するために、可能なことは何でも行なうという病院の責任について知らせます。

 

もし医師が有害事象に直接関わっていたならば、その医師は自分自身の役割に対して責任をとらなければなりません。しかし、また、有害事象が起きるのを助長したシステム上の要因についても説明するでしょう。しかしながら、「システム」を非難すべきではありませんし、「システム思考」のような専門用語を責任の回避をするための言い訳に用いてはなりません。

 

こうしたことには、次のような言い方があります。

 

・「私たちはあなたの期待に背いてしまいました」

・「これは起こってはいけないことでした」

・「私たちのシステムに問題が起こりました。何が起きたのか見つけ出して、それが2度と起きないように、私たちはできる限りのことを行ないます」

・「私たちが見出したことを、できるだけ早く、私があなたにお知らせするようにします」

 

3. 謝罪します。

過誤があったときに、医療従事者が、その患者さんを(そして医療従事者自身を)癒すためにできる最も有効なことのひとつは、謝罪することです。謝罪することは、傷害に責任をとる上で欠くことのできない側面です。よくあることですが、例え、個人よりもシステム上の欠陥が、その過誤の原因であるとしても、そうなのです。事故を説明し、後悔の念を伝え、和解の姿勢を示すことが、傷害に続く心の傷と怒りを和らげることに、大いに役立つことができるのです(文献11)。

 

事故の後ただちに、患者さんを担当する医療従事者は、起きたことに遺憾の意を表すべきです。それは、例え事故の原因が完全に分かっていないとしても、そうなのです。患者さんというのは、事故の後は、気分を害しやすく、傷つきやすいものです。共感と同情の気持ちを表すのは、その原因に関わらず、有害事象に対する欠くことのできない人間味のある応答です。〔言葉の例:「こんなことが起こって残念です。ひどいことです」〕。

 

もし、明らかな過誤が起きたら、その過誤を犯した人はだれであっても、過誤を速やかに明らかにし、謝罪し、過誤の原因究明に自ら関わっていくことを伝えるべきです。〔言葉の例:「私たちがこの過誤を犯しました。謝罪いたします」〕。個人による過誤は、通常、システム上の欠陥(それは特定され、明らかにされるべきです)の結果起きますが、ほとんどの患者さんは、そのことを理解しません。患者さんは、個人に責任があると考えます。その結果、過誤を犯した人が、謝罪し、心から後悔の念を示すことは、計り知れぬ価値があるのです。しかしながら、医療従事者がそのときに、感情の面で事態をうまく処理することができるかを考慮しなければなりません。もし、医療従事者が、患者さんと適切に意見を交換することができないのであれば、他の人に間に入ってもらうのが望ましいかもしれません。

 

他のだれかが過誤を犯したならば、主治医も謝罪しなければなりません。こうした場合、共同で謝罪に努めることが賢明かもしれません。つまり、過ちを犯した人(研修医、看護師、放射線技師など)が、謝罪のために、主治医と一緒に、患者さんと会うのです。

 

多くの医師が信じていることに反して、謝罪することが、医療過誤訴訟のリスクを増やすという証拠はほとんどありません(文献12)。実際には、医療過誤裁判での経験は全くその逆のことを示しています。つまり、隠し立てしないで意見交換し、責任を取り、謝罪するのを怠ることが患者さんの怒りを買うのです。医療過誤の弁護士の中には、医療過誤訴訟の3分の2は、責任を取り、謝罪し、隠し立てしないで意見交換するのを怠ったことに由来していると主張する人もいます(文献13)。

 

4.将来の事故を防ぐために何をするか説明します。

調査が完了し、改善策が計画されたら、患者さんとご家族にこれらの計画を伝えることが重要です。傷害を受けた患者さんは、自らに起こったことが、他の人に起こらないように配慮することに対して強い関心を持っています。医療従事者は、事故に対する応答でのこの視点の重要性を、しばしば過小評価しています。改善がなされ、自分たちの体験が改善につながったと知ることが、患者さんやご家族が痛みや喪失に対処することの手助けとなるのです。苦痛が無駄ではなかったと知ることで、自らの体験に、前向きな意味合いを持たせることができるのです。

 

 

〔要点2〕十分に情報を伝えるための4つのステップ

1. 患者さんとご家族に何が起こったかを話します。

2. 責任をとります。

3. 謝罪します。

4. 今後の医療事故を予防するためになされることを説明します。


B 最初のコミュニケーション 「だれ」が「どのように」

 

深刻な事件は、患者さんの自制心や医療従事者への信頼を大きく損なう可能性があります。したがって、最初のコミュニケーションは、患者さんが信頼関係を持つ人が行うべきです。また、配慮、気遣い、そして患者さんのケアがしっかりなされるということを伝えるべきです。この話し合いの目的は、患者さんをサポートし情報を伝えることであるので、プライバシーを守り、患者さんを力づけるような形でこの対話は開かれるべきです。また、患者さんを怖がらせたり希望を失わせたりすることがないよう、障壁や地位の誇示は避けるべきです。

 

通常は、患者さんの治療の責任者である医師が、謝罪を行なうのにもっとも適しています。しかし、状況によっては、他の医療関係者や管理責任者のほうが、過誤の開示と謝罪にもっと適切かもしれません。過誤を犯した看護師や、すでに患者さんやご家族と関係のある別のスタッフが適任の場合もあるでしょう。謝罪する責任のある医師が不在、もしくは謝罪できる精神状態でない場合は、例えば病院の副院長や医師のリーダーなどのそのための訓練を受けた人が代理を務めるべきです。オンブズマンや調停人は、このような状況で価値ある役割を果たすことができます。

 

その後の患者さんやご家族との話し合いは、主治医や病院の責任者によって適切に行なわれるでしょう。特別な状況においては、医療品質や医療安全に関する査察チームが参加するかもしれません。いずれの場合でも、スタッフはコミュニケーションの内容と態度の両面において、十分に、そして適切に準備をしておくべきです。このような話し合いは、患者さんやご家族がもっとも安心できるよう、患者さんの関心事を第一に考えつつ、秘密裏に行うべきです。

 

理由付けと根拠

事故の前でも後でも同じ医師が治療を行なう場合は、このコミュニケーションの任を負うのは明らかにその人になります。治療の場所が異なる場合(例えば集中治療室=ICUへの移動など)、両方の場所の医療従事者が出席して一緒に話し合いを行なうのが適切です。

 

コミュニケーションの統一と一貫性を確保するには、その後の話し合いが患者さんの関心事について最も精通しており、解決のために本気で取り組む人によって行なわれることが必要です。多くの場合、主治医が引き続き適任でしょう。しかし、改善努力や組織の責任に関する情報は、それらの分野の責任者たちによって提供されるのがより適切かもしれません。

 

推奨されること

1. 最初のコミュニケーションは、患者さんと以前に信頼関係を築いた医療従事者によって、もしくは少なくともその医療従事者のいる前で行なわれるべきです。理想的には、主治医、もしくは治療を計画し、実行した医師になるでしょう。

 

2. 同時に、その後の治療手順を決めるため、治療手順の一番の責任者が出席することも、患者さんやご家族にとって、しばしば役に立ちます。もしその責任者が患者さん担当の医療従事者と異なる場合例えば、外来の患者さんが目覚めたときICUにいたという場合)にはこれから患者さんの治療に責任を持つことになった医師も、治療の継続に関わっていくことを患者さんやご家族に確信させるために出席するべきです。もし、話し合いが複雑もしくは困難になると予想される場合は、患者さんにサポートしてくれる人を用意したり同席させたりするよう勧めるべきです。

 

3. また、患者さんの担当の看護師参加見守り、サポートするように同席させることが患者さんにとって助けになるかもしれません。この最初の段階で、上級管理責任者が参加することは、最も悲劇的な状況を除いて推奨されません。同様に、リスク・マネージャーと呼ばれるような人が最初のうちの話し合いに加わると、間違った雰囲気を作る可能性があります。

 

4. このような状況患者さんやご家族との話し合いは難しいものになる可能性があり、すべての医師や看護師がそのような話し合いを楽にこなせたり、できる能力があるとは限りません。もし、適任のスタッフには難しいと考えられる場合、もしくは彼ら自身に自信がないと思われる場合には、この分野で経験と能力を持った人が付き添うか、前もってコーチすべきです。医療機関は、これらの技術のトレーニングを行い、スタッフ全員にこのような話し合いをする時にどこに頼ればいいのかを周知すべきです。

 

5. インシデントを知らせる場所の選定は、特に、謝罪や補償が必要になった場合に重要です。可能であれば、その会合は事前に時間を設定し、機密保護と患者さんとご家族の感情に配慮したプライベートで静かな場所で行なわれるべきです。病院の個室や外来診療用の個室のオフィスが理想的です。もし、患者さんが通院で治療を受けている、もしくは病院から退院している場合は、患者さんの自宅への訪問が適応となるかもしれません。病院の2人部屋や外来診療の廊下や待合室など、公共の空間は決して使ってはいけません。さらに、役員室に患者さんやご家族を呼び出すのも適切ではありません。

 

 

 

〔要点3〕だれが、どのようにコミュニケートするか

・信頼されている医療従事者が、最初のコミュニケーションを主導しましょう。

・次の治療を担当する人が、その次のコミュニケーションを主導しましょう。

・患者さんの主任看護師を、コミュニケーションに関与させましょう。

・コミュニケーションの技術について、スタッフにコーチしましょう。

・静かな個室の空間を、コミュニケーションの場所に選びましょう。

 

C. フォローアップ・コミュニケーション

深刻な事故の後には、常に一回以上、フォローの話し合いを行なうことが望ましいでしょう。サポートや気遣いを引き続き示し関係改善のさらなる機会を見つけるのに加え、フォローアップ・コミュニケーションの主な目的は、起きた事故その事故を受けて行うシステム変更の性質についてより詳しい説明をすることです。この話し合いは、終わりの時間を決めずにおくべきで、時間を制限したり、中断したりしてはいけません。

 

推奨されること

1. フォローアップの会合は、重要な追加情報が入り次第すぐに手配されるべきです。もしそれに遅延が生じる場合は、患者さんやご家族は状況について頻繁に通知され、遅延についての謝罪を受けるべきです。

 

2. 主治医と治療チームのメンバーは、フォローアップ会合を必要に応じて行なってもよいでしょう。

 

3. 特に深刻な、もしくは非常に緊迫した事例においては、CMO(最高医療責任者Chief Medical Officer)や、CEO(最高経営責任者Chief Executive Officer)までも含めた上級管理職が関与すべきです。上級管理職の関与は、患者さん担当の医療従事者が信用を疑われている、もしくはコミュニケーションが十分に成功していない場合は特に必要となります。

 

 

〔要点4〕フォローアップ・コミュニケーション

・フォローアップ会合は、早急に行いましょう。

・主治医もしくは治療チームのメンバーが、会合を主導すべきです。

・深刻もしくは困難な事例には、CMO(最高医療責任者)かCEO(最高経営責任者)を関与させましょう。


3章 患者さんとご家族への支援

 

患者さんへのサポートは心理的、社会的、そしてある場合には経済的になされるべきです。深刻な医療事故(event)の後では、患者さんは、その状況を解明する努力の形跡のみならず、適時かつ適切で共感的な(empathetic)説明を受けることを患者さんは期待し、必要としていますし、なおかつそれを受ける権利が患者さんにはあります。さらに、患者さんは、感情面・社会面で必要なことに注意を払われることを必要としています。最小限、これには全医療従事者からの共感的なケアを必要としますが、社会的サービスと同様に、専門家によるカウンセリングと心のケアが必要となることもあるでしょう。 

 

患者さんは多くの場合経済的な支援をも必要としますが、それをどのように提供するかについては、さほど明確にはなっていません。患者さんは回避できたはずの傷害(injury)の結果として負った費用の弁償を受けるべきだと、多くの場合考えられています。これらには、ご家族の宿泊費や交通費、託児費用のような初期に発生する自己負担の支払費用のみならず、障害支援サービス、家事サービスや医師と面会する際の交通費等も含むこともあるでしょう。残念ながら、現行の診療報酬システムはこの種の支払いを提供していません。ですから、もしこれらを提供するならば、その費用は病院が負担しなければなりません。もし支払いを提供することになっていても、その申し出は、最初の話し合いの間にではなく、医療事故による障害からの回復過程において、追加費用の発生が明らかになったときに行われるべきでしょう。

 

理由付けと根拠

多くの患者さんにとって、入院している場所では、治療が計画通りに進んでいるときでさえ、傷つきやすい心の状態にあります。外傷後ストレス障害(post-traumatic stress disorder)は、「決まりきった」手順を踏んでも生じうるのです。医療による害あるいは予期せぬ医療事故を経験したとき、患者さんの反応は特に厳しいものになりがちです(文献6)。

 

手術に伴う傷害に関するある研究では、その事故の後で、患者さんの圧倒的大多数が生活にひどく否定的な影響を感じていました。肉体的な傷害に加え、心理的な傷害が重要な要素となっていました(文献14)。

 

ビンセント氏が示したように、医療による傷害は2つの意味で他の傷害の類型とは異なります。まず、患者さんは自分が信頼を寄せていた人間から故意ではなく傷つけられることです。ですから、その反応は特に強力かつ複雑になることがあります。次に、通常その傷害自体に関係していた同じ医師から治療を継続して受けるということです。結果として、医療従事者が共感的で支援的であるときでさえも、患者さんは医療従事者に対し恐怖を覚えたり矛盾する感情を持ったりするかもしれません(文献6)。

 

医療による傷害の後には、それに伴い、恐怖、不安、抑うつ、怒り、欲求不満、信頼の喪失、孤独感――が一般的な反応として発生します(文献5、6)。インシデント(医療事故)への不適切で無神経な対応は、患者さんの感情的な傷害の原因となることもあるでしょう。一方で、過誤や傷害をオープンに認めること、敏感であること、良いコミュニケーションをすること、修復行為において熟練した経営管理をすること――は、精神的な外傷を減少させるかもしれません(文献5-7)。