(ハーバード大学病院使用)

医療事故:真実説明・謝罪マニュアル

「本当のことを話して、謝りましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

When Things Go Wrong

Responding To Adverse Event

A Consensus Statement of the Harvard Hospitals

 

 

 

 

翻訳:東京大学 医療政策人材養成講座 有志

「真実説明・謝罪普及プロジェクト」メンバー

2006年11月16日
翻訳チーム メンバー (50音順)

本文書の翻訳は、東京大学 医療政策人材養成講座 有志によって行われました。

 

阿部 康一(1期生)(医療事故市民オンブズマン・メディオ代表)

岡田 弥生(2期生)(杉並保健所、歯科医師)  

加部 一彦(2期生)(愛育病院新生児科、医師

梶尾 裕(2期生)(国立国際医療センター 内分泌代謝科、医師) 

小竹 朝子(2期生)(ジャパンタイムズ 編集局 記者)  

小谷 幸(2期生)(社団法人日本看護協会 政策企画部) 

斉藤 安希(2期生)(財団法人 日本医療機能評価機構 認定病院患者安全部)     

千種 あや(2期生)(国立保健医療科学院 政策科学部 協力研究員)

津村 和大(2期生)(川崎市立川崎病院 内科、医師)

長谷川 幸子(2期生)(日本医科大学付属病院 医療安全管理部、医療安全管理者)

浜田 淳(1期生)(信州大学教育特任教授)

細川 幸子(2期生)(慶應義塾大学医学部・事務職員)  

山田 奈美恵(2期生)(朝日生命成人病研究所 循環器科、医師) 

吉岡 友治(1期生)(著述業、VOCABOW小論術校長)    

渡邊 清高(2期生)(東京大学医学部附属病院 内科、医師)

(チームリーダー)

埴岡 健一(東京大学 医療政策人材養成講座 特任助教授)([email protected]

(事務局)

牧田 篝(1期生)(Medical cafe主宰 医療コーディネーター)([email protected])

 

*東京大学 医療政策人材養成講座 http://www.hsp.u-tokyo.ac.jp/

 

*本翻訳の教育目的・非営利の利用を許諾します。営利目的にはいかなる形態においても、その複製や利用を禁じます。

●原文はこちら

When Things Go Wrong Responding To Adverse Event A Consensus Statement of the Harvard Hospitals

http://www.macoalition.org/documents/respondingToAdverseEvents.pdf

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目次

 

・翻訳チーム メンバー                                                2p

 

●目次                                                               3p

●まえがき                                                           4p

●はじめに                                                           5p

1  定義                              9p

 

1部 患者さんとご家族の経験                                       12p

2章 患者さんとご家族とのコミュニケーション              12p

3章 患者さんとご家族への支援                   23p

4章 退院後の患者さんとご家族の支援                              28p

 

2部 医療従事者の経験                                             30p

  5章 医療従事者への支援                                          30p 

   6章  訓練と教育                                                  33p

 

3部 医療事故の管理                                               36p

  7章 病院のインシデントに対する理念の要素                        36p

  8章 医療事故に対する初期の対応                                  38p

9章 医療事故の分析                                              40p

10章 文書化                                                     44p

11章 報告                                                       46p

 

・付録A 患者さんとの対話事例                                      48p

・付録B  ある患者さんとご家族とのコミュニケーションの事例           49p

・付録C  医療従事者への支援の要素                                   51p

・付録D  コミュニケーションのための訓練                             53p

・付録E 米国医療機関合同認定委員会(JCAHO)選定 医療過誤開示 参考文献一覧55p

・参考文献                                                           59p 

・「真実説明と謝罪」に関するワーキング・グループ・メンバー          61p

・ハーバード大学関連教育病院一覧                         62p

 


まえがき

 

2004年3月、ハーバード大学関連病院だけでなく全米の病院でも、医療過誤や有害事象に関する患者さんとのコミュニケーションの仕方に大きな格差があるという報告が出てきたことに対応して、いくつかのハーバード大学関連教育病院、ハーバード大学公衆衛生大学院、リスク管理財団(ハーバード関連教育機関の医療過誤専用保険会社)に属するリスクマネージャーや医師のグループが集まって、この問題をめぐるさまざまな論点について検討と議論を行いました。その席で、こうした予期しない医療事故に対する病院の対処をあらゆる観点から考慮すること、また、重要な論点についてはエビデンスに基づいた声明文書を作成することが、有用であると意見の一致をみました。このワーキンググループは毎月の会合を経て急速に拡大し、患者さんや法曹界の代表も参加するようになりました.

 

その結果作成された文書は、すべてのハーバード関連病院に2005年4月に送付され、各病院で広く配布し、議論や批評、適切な修正を加えるよう依頼されました。目的は、もし可能ならば、すべてのハーバード関連病院とリスク管理財団が支持するような「コンセンサス(合意)文書」を作成すること、さらには、この文書が組織の具体的な行動や基本方針を作り出す基礎として役立つことです。

 

このコンセンサス文書案への反応は圧倒的に好意的でした。しかしながら、修正案もたくさんありました。特に、予防可能な有害事象と予防不可能な有害事象の区別や費用負担、研修に関しての提案がなされました。文書は、これらの変更を取り入れて改訂され、改めて全病院に配布されました。この完成版の理念と原理はすべてのハーバード関連教育病院により支持され、現在、各病院ではこの文書にある推奨事項を実現すべく、個別の指針や業務案を作成するために、この文書が使用されています。

 

この文書は、次の3部から成り立っています。

1部 患者さんとご家族の体験(2〜4章)

2部 医療従事者の体験(5、6章)

3部 医療事故の管理(7〜11章)

 

各々の章は、次の3つのセクションから成り立っています。

1 その問題に対する専門家によるコンセンサス内容のまとめ

2 そのコンセンサスの背後にある理由付けと根拠

3 推奨されること

 


はじめに

 
21世紀に入ってから米国では、医療過誤や民事訴訟制度改革に関する論争が、ますます注目されるようになってきました。患者さんや政治家、政策立案者、医療専門家は、社会に衝撃を与えている医療過誤の広がりや結果(ニアミスで済んだか、患者さんに危害を与えたかにかかわらず)に取り組んでいます。医療過誤訴訟の損害賠償金の上限を法律で定めることから、不都合なインシデント(医療事故)(入院、外来のいずれの状況のものにかかわらず)に適用する倫理的および道徳的義務まで、さまざまなことが議論になっています。
 
医療過誤の損害賠償金額への恐れと悪い知らせを伝達する難しさ、因果関係と責任――に関する混同があったために、これまで長い間、患者さんやご家族、医療従事者が医療過誤の際に経験することを、包括的かつ大胆に変えていく動きが生まれませんでした。しかしながら、昨今の論争や探求によって,過誤が生み出される環境を調査することができるようになりました。また、大規模な変化の影響を生じさせ、実践し、分析することもできるようになりました。このようにして、医療機関は患者さんの安全と医療過誤についての問題提起をすることができるのです。
 
このコンセンサス(合意)文書は、大多数の病院が現在、実際に選択しているやり方とは全く異なる医療機関の対応の仕方について、潜在的メリットとリスクについて考察します。そして、迅速かつオープンな情報開示と、重大なインシデントを体験した患者さんやご家族への心情的支援に焦点を当てています。さらに、そのようなインシデントに関わった医療従事者を支援、教育する方法を提起し、組織としての包括的な基本方針の事務管理的な構成要素の枠組みを示しています。
 
この文書の目的は、基本方針についての合意事項を成文化することであり、個々の病院がこの基本理念を実行するための具体的な指針を作り出すために使用されることです。ただし、政策例や実践例を規定することが目的ではなく、むしろ現場の工夫や幅広い提言が実践されることを促していくものです。最終目的は、臨床現場の医療従事者や病院が、自らの手で分かりやすく、詳細で、明快かつ効果的な指針を開発するよう促すことにあります。そうすることで、こうした事象が生み出し、常に存在するようになっている苦悩に対処したり、予防したりすることができるのです。
 
背景
米国医学療研究所 (Institute of Medicine=IOM) は、1999年の画期的な報告書『人は誰でも間違える』 (To Err is Human。邦訳、日本評論者刊) において、医療行為による傷害が、予防可能な死の主な原因であると断言すると同時に、医療過誤の削減を医療政策の優先課題とすることを求めました(文献1)。IOMは、「システム的な欠陥が過誤や事故の主要因である」という他産業での教訓から学ぶよう強く訴えました。さらに、IOMは医療機関に、システムを改革することにより医療の安全性の向上を大いに推進するよう、強く勧告しました。これに答える形で、医療システムを改革する大規模な国家的運動が始動したのです。
 
IOMは、前書を受けた報告書『医療の質−谷間を越えて』(Crossing the Quality Chasm。邦訳、日本評論社刊) において、医療改革に向けて 6つの目標を提案しました。この報告書が医療機関に求めたものは、「安全で」「効果的で」「患者本位で」「タイミングよく」「効率よく」「公正な」、医療の供給です(文献2)。そして、病院に患者さんの利益を最優先するように強く求めました。さらに、この報告書は、医療機関のインシデントへの対応の仕方が、その組織が「学習する組織(learning organization)」に進歩できるかどうかを決めるという考えを提案しました。
 
基本方針
インシデントに対応するにあたって、本書が勧告する2つ基本方針は、@医療は安全でなければならないA医療は患者さん本位でなければならない――の2点です。
 
「医療は安全でなければならない」
病院は、「学習する組織」にならなければなりません。「学習する組織」とは、ピーター・センゲ(Peter Senge)(訳注:米国の経営学者)の定義によると、「己が心から望む成果を創造するために、継続的に己の能力を発達させる組織」です。私たちは、妥協することなく自己を点検し、継続的に改善することを自らに課さなければなりません。間違った方向にものごとが進んだ場合、私たちは2倍の義務を果たさなければなりません。すなわち,被害を受けた患者さんのケア、そして、自分たちのシステムを変更して医療過誤の再発を防止することです。
 
「医療は、患者さん本位でなければならない」
インシデントの事後対応においては、被害を受けた患者さんを支援し、患者さんを癒すことができる関係を維持することを、主たる目的としなければなりません。患者さんとご家族には、インシデントの詳細とその意味するところを知る権利があります。コミュニケーションはオープンで、タイミングよく、継続して行われるべきです。患者さんとのコミュニケーションを促進するためには、秘密主義的あるいは責任関係だけに焦点をおいた、敵対的な関係をとることは避けなければなりません。医療従事者の役割は、悲しみを和らげ支援すること、そして、患者さんが心から求めることに気を配ることです。オープンさと協調関係は、きわめて大切です。
 
この文書では、倫理的な議論をしているのであって、ビジネス事例や根拠に基づく臨床ガイドラインを扱っているのではありません。臨床的実践の裏づけとなる論文になったデータや経験に基づく証拠がある場合は、それらを引用していますが、あくまで、われわれの主たる正当性の根拠は、倫理なのです。私たちは、完全なる情報開示を約束します。なぜなら、それが「なすべき正しいこと(right thing to do)」であるからです。患者さんとご家族には、何が起きたか知る権利があるのです。付け加えて言うならば、正直なコミュニケーションが患者さんと医療供給者間の信頼関係を向上させるからこそ、患者さんのケアを、医師・患者関係の主要な関心事にしておくことができるのです。さらには、医療過誤に関してオープンに対話することによって、医療従事者が再発の可能性を最小化するシステム的な改善を探求することを奨励し、患者さんの安全性を向上させることができるのです。
 
医療機関はどのように対応すべきか
重大なインシデントが起こったならば、それをきっかけに連鎖的な対応をしなければなりません。第一に、その患者さんに対するさらなる害をできる限り最小限にとどめ、苦痛を軽減することに関心が払われなければなりません。次に、証拠を保護するために、医療機関は即座にインシデントに関係した薬剤や装置、記録を保全しなければなりません。医療チーム、それを担当すべき事務部門、病院上層部のメンバーは、即座にインシデントが発生したことを知る必要があります。できるだけ速やかに、その患者さんとご家族は、インシデントが発生したことと、その時点で分かっている事実を知らされなければなりません。患者さんとご家族には、多くの場合、心情的かつ心理的な支援が継続的に必要です。そして最後に、医療記録にはこうした一連の行為がすべて明確に記述されなければなりません。
 
事故のタイプによっては、医療従事者にも支援が必要となるかもしれません。できる限り速やかに、その臨床に関連したすべての関係者が事故の分析に参加し、内在するシステムの欠陥を調査しなければなりません。分析の目的は、事故に関わる背景を十分に理解し、事故に至った要因を特定し、再発防止を促すシステム改善のための実践的な勧告を作成することです。フォローアップ会議においては、適切なスタッフが、分析結果や修正計画を伝達しなければなりません。その後のことに関しても、医療機関や医療従事者がどのように対応するかに焦点を当て、これらの要素の一つひとつを吟味していきます。
 
私たちは、これらの課題について「自分に対する治療で自分が被害を受けたら、どうしてほしいか」と自問しながら、患者さんの視点で取り組んでいます。法的責任に関する法律的な問題を含め、病院と医療従事者の利害が対立する場合、私たちが振り返る基本的な枠組みは、「なすべき正しいことは、何か(What is the right thing to do?)」という単純な問いかけなのです。

1章 定義

 

 医療のケアの悪い結果を表すのに多くの用語が使われ、それが、しばしば混乱をもたらしてきました。例えば、米国医療機関認定合同委員会(JCAHO、Joint Commission on Accreditation of Healthcare Organizations)は、その情報開示理念において、治療の合併症を病気の合併症と区別しようと試み、「予期せぬ結果」を患者さんに説明するよう求めています。それでも、これによって、術後感染症のような治療の結果しばしば起こると知られている合併症に関しては、「予期されたもの」で情報開示の必要はないという議論を引き起こします。

 

もう一つの混乱のもとは、傷害(injury)と過誤(error)という用語を混同して使ってしまうことです。混乱を避けるために、本論では、米国ヘルスケア・リスク・マネジメント協会(ASHRM、American Society for Healthcare Risk Management)の下記の定義を用います。

 

有害事象:患者さんのもともとの病気によるというよりも、医療行為によって引き起こされた傷害。「害(harm)」「傷害(injury)」「合併症(complication)」とも言います。

 

・有害事象には、過誤に起因する場合と起因しない場合があります。さらに、予防可能な有害事象や予防不可能な有害事象の分類については、下記を参照してください。

 

・「医療行為(medical management)」とは、医師や看護師の行為や決定だけでなく、ケアのすべてにわたる局面のことを示します。

 

医療過誤:計画された行為を意図したとおりに遂行しようとして失敗すること、または目的を達成しようとして誤った計画を採用することです。医療過誤には、深刻な過誤も、軽微な過誤も、ニアミスも含みます(注:医療過誤は、害を起こすことも起こさないこともあります。害を起こさない医療過誤は、有害事象とはなりません)。

 

さらに次のように定義します――。

 

深刻な過誤:永続的な傷害となる可能性があるか、一時的ではあっても生命を脅かすおそれのある傷害を引き起こす可能性のある過誤。

 

軽微な過誤:傷害を起こさない過誤、または傷害を起こす可能性がない過誤。

 

ニアミス:傷害を起こしえた過誤であるが、患者さんに到達する前に遮られたもの。

 

予防可能な有害事象:過誤またはシステム的な欠陥に起因する傷害(あるいは合併症)。個人の過誤は、往々にしてシステム的な欠陥の最終結果であることに同意できるにしても、それでも、患者さんにも医療従事者にも、個人の過誤はきわめて個人的な事故と認識されています。以下の3つの分類を区分することは有益です。

 

・タイプ1:主治医による過誤 

例:医療行為を遂行する上での技術的な過誤

 

・タイプ2:医療チームの医師以外のだれかによる過誤 

例:看護師による間違った投薬、レジデント(研修医)の技術的あるいは判断上の過誤、放射線技師による照射部位間違い

 

・タイプ3:個人の過誤を伴わないシステム的な欠陥 

例:輸液ポンプの故障による過剰投与、検査を指示した医師に異常な検査結果を伝えるシステム的な欠陥

 

予防不可能な有害事象:過誤やシステム的な欠陥が原因ではなく、最新の科学知識でも常に予防できるとは限らない傷害(あるいは合併症)です。これらは大きく2つに分けられます。

・タイプ1: よくある、よく知られた高リスクの療法。患者さんはリスクを理解した上で、治療による効果を得るためにそのリスクを引き受けます。 

例:化学療法の合併症

 

・タイプ2: 通常の医療行為でまれにしか起こらないが、知られているリスク。患者さんは事前に、もしかして起こるかもしれないと、知らされていることもあるが、知らされていないこともあります。 

 例:薬の副作用、ある種の術創感染

 

インシデント(医療事故):有害事象あるいは深刻な過誤。事故ともいいます。

 

情報開示:患者さんあるいはご家族、またはその両者に、インシデントについての情報を提供すること。この用語は、特権的な立場が限定的に保持している情報を暴露することを示唆したり、選択のために使うという側面の意味を含んでいます。よって本編では、コミュニケーションという用語で置き換えることにより、オープンさと相互関係の感覚を伝えることとします。

 

報告:内部または外部の適切な権限者に、有害事象や医療過誤に関する情報を提供すること(どのような事故を報告すべきかについての詳細は、報告に関する章を参照)。

 


1部 患者さんとご家族の経験

 

2章 患者さんやご家族とのコミュニケーション

 

インシデント(医療事故)発生後には、患者さんやご家族に対する迅速で、心情に配慮した、正直なコミュニケーションが重要です。残念なことに、これはインシデントへの対応として、最もおろそかにされがちです。

 

 これらの事故が患者さんと医療従事者の双方に及ぼす感情的な影響のため、コミュニケーションはすべての関係者にとって難しくなりがちです。コミュニケーションの失敗は、医療従事者と同様に、患者さんの傷を倍加させ、患者さんが医療過誤訴訟を起こす主な理由になっていると考える人もいます。

 

このこみいった問題は、3つの断面に分けて考えることができます。

A 最初のコミュニケーション

何が伝えられなければならないか、そして、いつ行われなければならないか。

 

B 最初のコミュニケーション

だれが、どのように情報を提供するか。

 

C 入院中のフォローアップのためのコミュニケーション

 

退院後のコミュニケーションとフォローについては、第4章で考えます。

 

 

A 最初のコミュニケーション 「なに」を「いつ」

 患者さんもしくは、患者さんとご家族は、どんなインシデント(患者さんに影響した、どの様な有害事象もしくは深刻な過誤)に関しても、十分かつ迅速に情報提供されなければなりません。患者さんと医療従事者の間には、軽微な(無害な)過誤を患者さんに知らせることは適当でないという暗黙の合意があります。ニアミス(危害を生じることがありえたが、実際には過誤が避けられた場合)は特別な例であり、個別に対応される必要があります。医療従事者と管理責任者は、情報提供の基準と、なぜそれが基準に選ばれたのかについて議論し合意する必要があります。これは難しい作業ですが、はっきりした一貫性がある組織の方針が求められます。

 

インシデントの発生は、それが確認され次第、また患者さんが身体的、精神的にその情報を受け取る準備ができ次第、直ちに患者さんに伝えられなければなりません。通常は、それを、事故が生じた後、24時間以内にしなければなりません。早く知らせるとことが、信頼を維持するために最も重要です。患者さんとやりとりすることが可能でない場合、最初のコミュニケーションは、さらに議論をする際に患者さんを代弁する立場にある、ご家族のだれか、もしくは医療に関する代理人と始めなければなりません。

 

最初の説明は、何が起こったのかと、すぐに現れる影響や予後を含め、患者さんに対しどのように影響するのか、に重点を置かなければなりません。医療従事者は事故の発生を認め、それが生じたことに関して遺憾の意を表明し、何があったかについて説明しなければなりません。明らかな過誤が発生した場合には、医療従事者は過誤の発生を認め、それに対する責任をとり、謝罪し、なぜそれが発生したのかを明らかにすることを確約しなければなりません。

 

医療従事者は、生じた傷害の影響を軽減するためになにが行われつつあるのかについての説明もしなければなりません。調査が終わるまでは、どのようにして、なぜ事故が起こったのかについての理由の説明は猶予されなければなりませんが、医療従事者は患者さんとご家族に対して、事故の原因が調査中であること、準備ができ次第、得られた情報が共有されることを知らせなければなりません。

 

理由付けと根拠

 患者さんとご家族に対するインシデントに関するコミュニケーションは、有害事象への医療機関の対応の、きわめて重要な部分です。率直で正直なコミュニケーションは、信頼を維持し、回復し、さらには、進行中の治療を適切に提供するためにも不可欠です。治療の提供に問題がなく、状況がよいときには、信頼を保つことは難しくありません。本当に試されるのは、関係をこじらせるような何らかの事態が発生した際にも、関係を保つという場合です。情報提供の過程がどのように行なわれたかは、患者さんとご家族の反応に大きく影響します。

 

 有害事象が生じていないときでさえ、多くの患者さんは、病気であることや、治療を必要とする状態であることによって弱気であると感じています。ですから、有害事象が実際に起こった場合には、患者さんはとりわけ激しい、あるいは複雑な感情的な反応を示す可能性があります。恐れ、不安、抑うつ、怒り、落胆、信頼の喪失、孤立感などが一般的な反応です(文献5、6)。そして、とりわけ精神的外傷性で生命を脅かしうる事故が起こった後では、消えない記憶、感情の麻痺、フラッシュバック(再体験)と言った反応が起こり得ます(文献6)。これらの反応は、事故が過誤に起因しなかったときでも、そして、インフォームド・コンセント(説明の上の同意)を得る過程で過誤発生の可能性について話しあった場合でも、生じる可能性があります。

 

 さらに、患者さんと医師、患者さんと看護師の関係は、有害事象が過誤によって生じた際にはしばしば難しいものとなります。患者さんは、彼ら自身が彼らを助けるように委ねた、まさにその人々によって、意図せずに傷つけられるのです。そして、有害事象発生の後で、患者さんは有害事象そのものに関係していた同じ医師によって、しばしば治療を受けます。例え医療従事者が同情的で、率直で支えとなるような場合でも、患者さんはこうした医療従事者について相反する感情を抱きます(文献6)。

 

インシデントに対する患者さんとご家族の反応は、インシデントそのものとインシデントの扱われ方の両方に影響されます。傷害について率直に認めること、敏感であること、良好なコミュニケーションを実行すること、ばん回策を上手に管理するといったことが、感情的な精神的外傷を減らす可能性があります。一方で、不適切あるいは無神経な対応は、さらなる精神的外傷を引き起こす可能性があります(文献5〜7)。

 

医学的文献の示すところでは、大部分の患者さんは有害事象を知らされたいと希望しています。米国の大学の内科外来診療所で行われた149例の患者さんの調査(文献8)で、患者さんは3つの医療過誤(軽度、中程度、重度)が起こった場合の想定シナリオについて回答をしました。98%の患者さんが、たとえ軽度であるとしても、過誤について知らせてほしいと希望しました。中程度と重大な過誤の両方のシナリオでは、医師が過誤を明らかにしない場合は、患者さんは有意に多く訴訟を考慮するという結果でした。

 

 英国のある調査では、92%の患者さんは、合併症が起こった場合は常に知らされなければならないと考えており、81%の患者さんは、合併症を知らされるだけでなく、起こりうる不都合な結果に関しても詳細な情報を与えられなければならないと考えていました(文献9)。医療過誤事件で法的措置をとっていた227例の患者さんとご家族を対象とした英国の調査では、原告は、より誠実に、患者さんが負った傷の重みを理解し、患者さんの体験が教訓として学ばれるという確かな約束を望んでいました(文献7)。

 

 医師の過失によって損害を受けた時、患者さんは傷つけられ、裏切られ、おとしめられ、屈辱的で、恐ろしいと感じる可能性があります。責任をとって謝罪することによって、医師は患者さんのこうした感情を認め、その影響を理解し、修復を始めることができます。謝罪は、患者さんの尊厳を回復し、癒しの過程が始まることを助けるのです。それはまた、医師が自分自身の精神的外傷に対処することも助けます。一方、過誤を認めて遺憾の意を表明することに失敗すれば、患者さんの状況を十分に尊重することができずに、「人を傷つけたうえさらに侮辱する」ことになります。

 

 医療機関のリーダーたちによる強力な支援と、明確に定められ、かつ合意形成がなされた方針や指示によって、一人ひとりの医師とリスクマネージャーの率直なコミュニケーションが、支えられなければなりません。病院の上級管理者に支えられていなければ、生じた問題に対して、医師が正直で率直であることは困難です。

 

推奨されること

医療従事者は、患者さんに影響する有害事象あるいは過誤はどのようなものでも、たとえ害がなかった場合でも、即座に患者さんやご家族に伝えるべきです。患者に影響が及ばなかった軽微な過誤は情報開示する必要はありません。ニアミスや未然に防げた重篤な過誤を話すかどうかは、個別に扱うべきです。もし患者さんがその過誤に気づいているならば、あるいはその過誤について知ることが再発を予防することに役立つことができるのであれば、患者さんに情報を伝えるべきです。コミュニケーション(情報提供)が求められるかどうかについて疑問があるときには、医療従事者は、内部の専門家、たとえばリスクマネージャーや医療安全責任者、上級管理者に相談すべきです。

 

医療従事者はインシデントについて、そしてその傷害を緩和し再発を予防するためになされていることについて、正直であるべきであり、情報を公開すべきです。うそ偽りのないコミュニケーション(情報提供)は患者さんに対する敬意を伝えます。医療事故を事実と認めないことは、患者さんにとって非常に苦痛でしょうし、苦情や訴訟の強力な刺激剤となります。

 

医療事故が明らかに過誤によるものではない(すなわち、タイプ1またはタイプ2の予防不可能な有害事象)ときや、原因が不明であるときは、遺憾の意を表明(「このようなことがあなたに起こって残念に思います」)し、何が起こったかを説明し、さらなる傷害を軽減するためになされることについて話し合うべきです。患者さんが、傷害が医療行為の失敗の結果ではなく、もともと存在していた危険性であることを、確実に理解できるようにすることが重要です。化学療法の場合(タイプ1)のように合併症の危険が高く、それが患者さんによく知られている場合には、これは比較的容易です。

 

もっとまれな予防不可能な医療事故(タイプ2)に関しては、たとえインフォームド・コンセントを得ることに十分な注意が与えられていたときでさえ、患者さんは多くの場合、最初の反応として、だれかが医療過誤を起こしたと推定します。したがって、たとえ医療従事者には非常に当たり前のことと思えるときでさえ、何が起こったのかについて十分で辛抱強い説明を行なうことが重要です。医療スタッフが傷害を真剣に受け止めており、それが生じたことを残念に思っていることを患者さんが分かるだけでなく、それを予防することが医療スタッフにできることではなかったことを患者さんが理解することが非常に重要です。

 

傷害が医療過誤によるものであるかどうか明確でないならば、医療事故はやはり事実として受け止められるべきで、前記のごとく遺憾の意を表明されなければなりません。しかしながら、すべての事実が判明する前に、早合点したり、自分自身やだれか特定の人を非難したり、医療事故の責任をとったりしないことが重要です。十分な調査を約束しなければなりませんし、それとともに、事実がより明らかになれば患者さんに報告することを約束しなければなりません。

 

医療事故が医療過誤あるいはシステム上の不備(タイプ1〜3の予防可能な有害事象)によるものの場合には、もっと十分な説明が必要であり、それだけでなく、謝罪および将来の患者さんに対する再発予防策の説明が必要です。だれが医療過誤を起こしたかとか何のシステムに不備があったかということにかかわらず、患者さんに情報を伝達する主な責任は、患者さんへの医療行為に責任がある主治医にあります。

 

 

〔要点1〕インシデント発生直後の情報公開についての一般原則

・インシデント発生についての事実だけを伝えましょう――すなわち、何が起きたかということを伝え、どのようにしてなぜその結果が起きたのかあなたが信じていることは伝えないようにしましょう。

・信頼できる情報が手に入ったときには、適切なタイミングで情報提供しましょう。

・さらなる診断や治療について、あなたが推奨することを説明しましょう。

・今後の予想される経過の見通しについて説明しましょう。

 

 

予防可能な有害事象について十分に情報を伝達するには4つの基本的なステップがあります。

 

1. 患者さんとご家族に、何が起こったかを話します。

今「何が」起こったかを話してください。「どのよう」にとか「なぜ」といった詳細については、後でいいのです(文献10)。有害事象の原因を確定するには注意深い分析が必要であり、時間もかかります。しかしながら、患者さんとご家族はすぐに返答を求めがちです。したがって、有害事象のすぐ後には、話し合いは既知の事実に限り、憶測は避けなければなりません。憶測や予備的な結論は患者さんやご家族によってしばしば確定的なこととして解されてしまいます。初めの印象がその後の注意深い分析でしばしば否定されるのが、インシデント調査の特徴です。もし憶測からの情報が患者さんとご家族に共有され、それが後に注意深い分析の結果で否定されたものであった場合には、医師は自分自身の間違いを正すことを余儀なくさせられます。そのことによって、医師の信用や、またその後伝えられる情報の信用に、疑いが投げかけられるかもしれないのです。有害事象の分析の結論や将来の有害事象予防のために推奨されるシステムの変更は、後にこの情報が利用可能となったときに、患者さんやご家族と一緒に話し合われなければなりません。一方で、患者さんがすぐに知らなければならない、すでにある情報を隠しておくことは、妥当ではありません。

 

2. 責任をとります。

インシデントが特定の行為の結果であるかどうかに関わらず、主治医は患者さんやご家族に対し自分が責任を負っていることを明言しなければいけません。有害事象の責任をとることは、医療事故について十分に情報提供することの基本的なステップです。患者さんが自分たちへの診療行為を委任している人物として、主治医は実際には傷害を引き起こす過ちを犯さなかったときでさえ、責任を負わなければなりません。有害事象に対する一切の責任や責務は病院にあるのです。したがって、重大な医療事故の後で、病院や病院幹部もまた責任を受け入れ、病院や幹部に責任があり遺憾の気持ちを持っていることを患者さんとご家族に伝える責任があります。すべての医療事故は2つとないものですので、病院幹部と医師は患者さんやご家族との情報伝達をうまく調整する必要があります。

 

少し考えてみると、医師が有害事象に関してまったくなすすべがないような状況において、その事故に責任を負わなければならないというのは変なことに思われるかもしれません。このような場合、責任をとるということは単に罪過を負うということを意味しているわけではありません。おそらく多くの要因が医療事故に関わっており、その要因の多くはだれにも統制できないものです。しかしながら、医療チームのリーダーとして、医師は当該の患者さんに医療を提供する医療システムになくてはならない部分です。患者さんやご家族が、医師が医療行為に責任がある人物であると考えることは理解できます。患者さんは、主治医に気遣いや慰めを当てにしており、物事を自分たちのためにうまく動かしてくれると期待しています。患者さんは、だれかが責任を持って状況を統制していることを知りたいと考えているのです。

 

医師や病院幹部が医療事故の責任を負うときには、将来の行動に対する責任を受け入れているのです。すなわち、医療事故の原因を見つけ出そうと試みたり、患者さんやご家族に情報を伝えたり更新したり、そして有害事象の合併症を監視したり管理したりします。彼らは、将来に同様な医療事故が他の患者さんに起きるのを予防するために、可能なことは何でも行なうという病院の責任について知らせます。

 

もし医師が有害事象に直接関わっていたならば、その医師は自分自身の役割に対して責任をとらなければなりません。しかし、また、有害事象が起きるのを助長したシステム上の要因についても説明するでしょう。しかしながら、「システム」を非難すべきではありませんし、「システム思考」のような専門用語を責任の回避をするための言い訳に用いてはなりません。

 

こうしたことには、次のような言い方があります。

 

・「私たちはあなたの期待に背いてしまいました」

・「これは起こってはいけないことでした」

・「私たちのシステムに問題が起こりました。何が起きたのか見つけ出して、それが2度と起きないように、私たちはできる限りのことを行ないます」

・「私たちが見出したことを、できるだけ早く、私があなたにお知らせするようにします」

 

3. 謝罪します。

過誤があったときに、医療従事者が、その患者さんを(そして医療従事者自身を)癒すためにできる最も有効なことのひとつは、謝罪することです。謝罪することは、傷害に責任をとる上で欠くことのできない側面です。よくあることですが、例え、個人よりもシステム上の欠陥が、その過誤の原因であるとしても、そうなのです。事故を説明し、後悔の念を伝え、和解の姿勢を示すことが、傷害に続く心の傷と怒りを和らげることに、大いに役立つことができるのです(文献11)。

 

事故の後ただちに、患者さんを担当する医療従事者は、起きたことに遺憾の意を表すべきです。それは、例え事故の原因が完全に分かっていないとしても、そうなのです。患者さんというのは、事故の後は、気分を害しやすく、傷つきやすいものです。共感と同情の気持ちを表すのは、その原因に関わらず、有害事象に対する欠くことのできない人間味のある応答です。〔言葉の例:「こんなことが起こって残念です。ひどいことです」〕。

 

もし、明らかな過誤が起きたら、その過誤を犯した人はだれであっても、過誤を速やかに明らかにし、謝罪し、過誤の原因究明に自ら関わっていくことを伝えるべきです。〔言葉の例:「私たちがこの過誤を犯しました。謝罪いたします」〕。個人による過誤は、通常、システム上の欠陥(それは特定され、明らかにされるべきです)の結果起きますが、ほとんどの患者さんは、そのことを理解しません。患者さんは、個人に責任があると考えます。その結果、過誤を犯した人が、謝罪し、心から後悔の念を示すことは、計り知れぬ価値があるのです。しかしながら、医療従事者がそのときに、感情の面で事態をうまく処理することができるかを考慮しなければなりません。もし、医療従事者が、患者さんと適切に意見を交換することができないのであれば、他の人に間に入ってもらうのが望ましいかもしれません。

 

他のだれかが過誤を犯したならば、主治医も謝罪しなければなりません。こうした場合、共同で謝罪に努めることが賢明かもしれません。つまり、過ちを犯した人(研修医、看護師、放射線技師など)が、謝罪のために、主治医と一緒に、患者さんと会うのです。

 

多くの医師が信じていることに反して、謝罪することが、医療過誤訴訟のリスクを増やすという証拠はほとんどありません(文献12)。実際には、医療過誤裁判での経験は全くその逆のことを示しています。つまり、隠し立てしないで意見交換し、責任を取り、謝罪するのを怠ることが患者さんの怒りを買うのです。医療過誤の弁護士の中には、医療過誤訴訟の3分の2は、責任を取り、謝罪し、隠し立てしないで意見交換するのを怠ったことに由来していると主張する人もいます(文献13)。

 

4.将来の事故を防ぐために何をするか説明します。

調査が完了し、改善策が計画されたら、患者さんとご家族にこれらの計画を伝えることが重要です。傷害を受けた患者さんは、自らに起こったことが、他の人に起こらないように配慮することに対して強い関心を持っています。医療従事者は、事故に対する応答でのこの視点の重要性を、しばしば過小評価しています。改善がなされ、自分たちの体験が改善につながったと知ることが、患者さんやご家族が痛みや喪失に対処することの手助けとなるのです。苦痛が無駄ではなかったと知ることで、自らの体験に、前向きな意味合いを持たせることができるのです。

 

 

〔要点2〕十分に情報を伝えるための4つのステップ

1. 患者さんとご家族に何が起こったかを話します。

2. 責任をとります。

3. 謝罪します。

4. 今後の医療事故を予防するためになされることを説明します。


B 最初のコミュニケーション 「だれ」が「どのように」

 

深刻な事件は、患者さんの自制心や医療従事者への信頼を大きく損なう可能性があります。したがって、最初のコミュニケーションは、患者さんが信頼関係を持つ人が行うべきです。また、配慮、気遣い、そして患者さんのケアがしっかりなされるということを伝えるべきです。この話し合いの目的は、患者さんをサポートし情報を伝えることであるので、プライバシーを守り、患者さんを力づけるような形でこの対話は開かれるべきです。また、患者さんを怖がらせたり希望を失わせたりすることがないよう、障壁や地位の誇示は避けるべきです。

 

通常は、患者さんの治療の責任者である医師が、謝罪を行なうのにもっとも適しています。しかし、状況によっては、他の医療関係者や管理責任者のほうが、過誤の開示と謝罪にもっと適切かもしれません。過誤を犯した看護師や、すでに患者さんやご家族と関係のある別のスタッフが適任の場合もあるでしょう。謝罪する責任のある医師が不在、もしくは謝罪できる精神状態でない場合は、例えば病院の副院長や医師のリーダーなどのそのための訓練を受けた人が代理を務めるべきです。オンブズマンや調停人は、このような状況で価値ある役割を果たすことができます。

 

その後の患者さんやご家族との話し合いは、主治医や病院の責任者によって適切に行なわれるでしょう。特別な状況においては、医療品質や医療安全に関する査察チームが参加するかもしれません。いずれの場合でも、スタッフはコミュニケーションの内容と態度の両面において、十分に、そして適切に準備をしておくべきです。このような話し合いは、患者さんやご家族がもっとも安心できるよう、患者さんの関心事を第一に考えつつ、秘密裏に行うべきです。

 

理由付けと根拠

事故の前でも後でも同じ医師が治療を行なう場合は、このコミュニケーションの任を負うのは明らかにその人になります。治療の場所が異なる場合(例えば集中治療室=ICUへの移動など)、両方の場所の医療従事者が出席して一緒に話し合いを行なうのが適切です。

 

コミュニケーションの統一と一貫性を確保するには、その後の話し合いが患者さんの関心事について最も精通しており、解決のために本気で取り組む人によって行なわれることが必要です。多くの場合、主治医が引き続き適任でしょう。しかし、改善努力や組織の責任に関する情報は、それらの分野の責任者たちによって提供されるのがより適切かもしれません。

 

推奨されること

1. 最初のコミュニケーションは、患者さんと以前に信頼関係を築いた医療従事者によって、もしくは少なくともその医療従事者のいる前で行なわれるべきです。理想的には、主治医、もしくは治療を計画し、実行した医師になるでしょう。

 

2. 同時に、その後の治療手順を決めるため、治療手順の一番の責任者が出席することも、患者さんやご家族にとって、しばしば役に立ちます。もしその責任者が患者さん担当の医療従事者と異なる場合例えば、外来の患者さんが目覚めたときICUにいたという場合)にはこれから患者さんの治療に責任を持つことになった医師も、治療の継続に関わっていくことを患者さんやご家族に確信させるために出席するべきです。もし、話し合いが複雑もしくは困難になると予想される場合は、患者さんにサポートしてくれる人を用意したり同席させたりするよう勧めるべきです。

 

3. また、患者さんの担当の看護師参加見守り、サポートするように同席させることが患者さんにとって助けになるかもしれません。この最初の段階で、上級管理責任者が参加することは、最も悲劇的な状況を除いて推奨されません。同様に、リスク・マネージャーと呼ばれるような人が最初のうちの話し合いに加わると、間違った雰囲気を作る可能性があります。

 

4. このような状況患者さんやご家族との話し合いは難しいものになる可能性があり、すべての医師や看護師がそのような話し合いを楽にこなせたり、できる能力があるとは限りません。もし、適任のスタッフには難しいと考えられる場合、もしくは彼ら自身に自信がないと思われる場合には、この分野で経験と能力を持った人が付き添うか、前もってコーチすべきです。医療機関は、これらの技術のトレーニングを行い、スタッフ全員にこのような話し合いをする時にどこに頼ればいいのかを周知すべきです。

 

5. インシデントを知らせる場所の選定は、特に、謝罪や補償が必要になった場合に重要です。可能であれば、その会合は事前に時間を設定し、機密保護と患者さんとご家族の感情に配慮したプライベートで静かな場所で行なわれるべきです。病院の個室や外来診療用の個室のオフィスが理想的です。もし、患者さんが通院で治療を受けている、もしくは病院から退院している場合は、患者さんの自宅への訪問が適応となるかもしれません。病院の2人部屋や外来診療の廊下や待合室など、公共の空間は決して使ってはいけません。さらに、役員室に患者さんやご家族を呼び出すのも適切ではありません。

 

 

 

〔要点3〕だれが、どのようにコミュニケートするか

・信頼されている医療従事者が、最初のコミュニケーションを主導しましょう。

・次の治療を担当する人が、その次のコミュニケーションを主導しましょう。

・患者さんの主任看護師を、コミュニケーションに関与させましょう。

・コミュニケーションの技術について、スタッフにコーチしましょう。

・静かな個室の空間を、コミュニケーションの場所に選びましょう。

 

C. フォローアップ・コミュニケーション

深刻な事故の後には、常に一回以上、フォローの話し合いを行なうことが望ましいでしょう。サポートや気遣いを引き続き示し関係改善のさらなる機会を見つけるのに加え、フォローアップ・コミュニケーションの主な目的は、起きた事故その事故を受けて行うシステム変更の性質についてより詳しい説明をすることです。この話し合いは、終わりの時間を決めずにおくべきで、時間を制限したり、中断したりしてはいけません。

 

推奨されること

1. フォローアップの会合は、重要な追加情報が入り次第すぐに手配されるべきです。もしそれに遅延が生じる場合は、患者さんやご家族は状況について頻繁に通知され、遅延についての謝罪を受けるべきです。

 

2. 主治医と治療チームのメンバーは、フォローアップ会合を必要に応じて行なってもよいでしょう。

 

3. 特に深刻な、もしくは非常に緊迫した事例においては、CMO(最高医療責任者Chief Medical Officer)や、CEO(最高経営責任者Chief Executive Officer)までも含めた上級管理職が関与すべきです。上級管理職の関与は、患者さん担当の医療従事者が信用を疑われている、もしくはコミュニケーションが十分に成功していない場合は特に必要となります。

 

 

〔要点4〕フォローアップ・コミュニケーション

・フォローアップ会合は、早急に行いましょう。

・主治医もしくは治療チームのメンバーが、会合を主導すべきです。

・深刻もしくは困難な事例には、CMO(最高医療責任者)かCEO(最高経営責任者)を関与させましょう。


3章 患者さんとご家族への支援

 

患者さんへのサポートは心理的、社会的、そしてある場合には経済的になされるべきです。深刻な医療事故(event)の後では、患者さんは、その状況を解明する努力の形跡のみならず、適時かつ適切で共感的な(empathetic)説明を受けることを患者さんは期待し、必要としていますし、なおかつそれを受ける権利が患者さんにはあります。さらに、患者さんは、感情面・社会面で必要なことに注意を払われることを必要としています。最小限、これには全医療従事者からの共感的なケアを必要としますが、社会的サービスと同様に、専門家によるカウンセリングと心のケアが必要となることもあるでしょう。 

 

患者さんは多くの場合経済的な支援をも必要としますが、それをどのように提供するかについては、さほど明確にはなっていません。患者さんは回避できたはずの傷害(injury)の結果として負った費用の弁償を受けるべきだと、多くの場合考えられています。これらには、ご家族の宿泊費や交通費、託児費用のような初期に発生する自己負担の支払費用のみならず、障害支援サービス、家事サービスや医師と面会する際の交通費等も含むこともあるでしょう。残念ながら、現行の診療報酬システムはこの種の支払いを提供していません。ですから、もしこれらを提供するならば、その費用は病院が負担しなければなりません。もし支払いを提供することになっていても、その申し出は、最初の話し合いの間にではなく、医療事故による障害からの回復過程において、追加費用の発生が明らかになったときに行われるべきでしょう。

 

理由付けと根拠

多くの患者さんにとって、入院している場所では、治療が計画通りに進んでいるときでさえ、傷つきやすい心の状態にあります。外傷後ストレス障害(post-traumatic stress disorder)は、「決まりきった」手順を踏んでも生じうるのです。医療による害あるいは予期せぬ医療事故を経験したとき、患者さんの反応は特に厳しいものになりがちです(文献6)。

 

手術に伴う傷害に関するある研究では、その事故の後で、患者さんの圧倒的大多数が生活にひどく否定的な影響を感じていました。肉体的な傷害に加え、心理的な傷害が重要な要素となっていました(文献14)。

 

ビンセント氏が示したように、医療による傷害は2つの意味で他の傷害の類型とは異なります。まず、患者さんは自分が信頼を寄せていた人間から故意ではなく傷つけられることです。ですから、その反応は特に強力かつ複雑になることがあります。次に、通常その傷害自体に関係していた同じ医師から治療を継続して受けるということです。結果として、医療従事者が共感的で支援的であるときでさえも、患者さんは医療従事者に対し恐怖を覚えたり矛盾する感情を持ったりするかもしれません(文献6)。

 

医療による傷害の後には、それに伴い、恐怖、不安、抑うつ、怒り、欲求不満、信頼の喪失、孤独感――が一般的な反応として発生します(文献5、6)。インシデント(医療事故)への不適切で無神経な対応は、患者さんの感情的な傷害の原因となることもあるでしょう。一方で、過誤や傷害をオープンに認めること、敏感であること、良いコミュニケーションをすること、修復行為において熟練した経営管理をすること――は、精神的な外傷を減少させるかもしれません(文献5-7)。

 

病院滞在の延長や障害は、多額の追加的で予期せぬ費用をもたらします。たとえその時点の分析が過誤やシステム的不備を示していなくとも、もし傷害が治療により引き起こされたものであれば、患者さんは病院に失望を覚え、特別な配慮を受ける権利があると感じることもあるでしょう。

 

困難な状況では、オンブズマン(苦情調査官)かメディエーター(調停者)の関わりが必要とされるかもしれません。カイザー・パーマネンテ病院(Kaiser Permanente。訳注:カリフォルニア州を中心とした大手病院ネットワーク)における経験は、オンブズマンやメディエーターの活動が、患者さんの苦難を認め、すべての関係者が情報を交換することを支援し、事故が再発する可能性を最小限にとどめるよう問題を公にすることによって、患者さんが経験することを改善できることが示唆されています(文献15)。

 

患者さんは、合併症が生じた際には、病院と医師への支払いが免除されることを期待するかもしれません。これは、特に、もし傷害が治療のプロセスにおいて過誤やその他の失敗によって生じたと認められる場合には、そのようになりがちです(「なぜ病院のミスに対して私が支払わなければならないのか」)。この状況では、支払いを免除し、追加費用の負担を提供することが、傷害への「つぐない」を開始し、病院の公平さを示し、患者さんの自尊心の回復あるいは維持を助けにつながります。不確かな証拠ですが、傷害の結果として生じた追加費用に見合った比較的少額の支払いでさえ、患者さんの事故への反応に対し強く肯定的な影響を及ぼすことが示唆されています。

 

退院後の、予測可能で長期間の継続的な費用を病院が補償すべきかどうかについては、賛否が分かれています。そのような費用も負担することを考慮することが可能です。米国では、医療過誤訴訟を起こす以外に、患者さんには頼みにする手段はほとんどありません。多くの人は傷害の費用への補償はするべき公正なことであるというだけではなく、完全開示(full disclosure)を伴えば、起こされる訴訟の数を劇的に減少させると信じています。もしそうならば、費用への補償は経済的にも賢明なことです。

 

法廷外で補償を提供する有効なモデルの経験が具体化しつつあります。これらのモデルの基本は、医師・患者関係と、開かれた信頼感のあるコミュニケーションの維持を、可能な限り強調することです。その有用性を証明する研究データは限られていますが、すでに出た結果からは、前途有望と考えられます。すべてのインシデント(医療事故)がこうした革新的なプログラムを通じて対処されるわけではありませんが、試験的プログラムのデータは、多くの事故が対処可能であることを示唆しています。

 

以下の3つのプログラムは、これがどのように働くかの成功事例です。

 

1. 1997年以来、ケンタッキー州レキシントンにある退役軍人病院ネットワークの1病院は、患者さんへの傷害が医療過誤や不注意によるときは、情報開示をする方針を有しています。こうした事例では、過誤は患者さんやご家族に開示され、和解策が提示されます。開示方針を実行する以前は、レキシントンの退役軍人病院では、退役軍人病院ネットワークの同タイプの病院の中で、医療過誤請求支払い金額が最も高かったのです。開示方針の実行後、レキシントン退役軍人病院はグループのうち、金額が最も低い4分の1の層に入りました。これらのデータは説得力がありますが、連邦政府の被雇用者は医療事故の損害賠償の責任を問われないため、非連邦政府設立の病院に一般化するには限界があります。さらに、連邦政府は懲罰的な損害補償に対して法的な責任を負うことができません(文献12)。

 

2. 2002年に、ミシガン大学アン・アーバー校において、医師が率直に過ちを認め謝罪するというだけの簡単な内容の方針が実施されました。実施後、患者さんからの申し立ての解決に要した期間は平均1000日から300日に減少し、弁護士費用は3分の1に削減され、未解決の申し立てや訴訟が減少しました。このプログラムでは、公正な補償の支給を含め、できるだけ早く患者さんとご家族のニーズに注意を向けることに重点が置かれています(文献17)。

 

3. コロラド州デンバーにある保険会社COPICは、一定の患者さんへの支払いを、弁護士の関与なしに、うまく取り決めています。「COPIC3R」という試験的プログラムは、認識(Recognize)、対応(Respond)、解決(Resolve)の3Rを柱とするもので、2000年に開始されました。2004年12月31日までに、930の認定されたインシデント(医療事故)があり、305人の患者さんが払い戻しを受け取りました。支払いは額は、認定されたインシデント一件当たりでは1747ドルであり、支払われた事故1件当たりでは5326ドルとなりました。最も注目すべき点は、これらの事例のうちどれもが訴訟には至らなかったことです。初期の知見は、大きなコスト削減の可能性だけでなく、医師−患者間のコミュニケーションを改善し、両者の関係性を維持し、関係者全員の満足度を向上させることを示唆しています(文献18)。

 

ハーバード大学医学部関連病院のおける事例に関しては、付録Bをご覧ください。

 

 

 

推奨されること

1. 患者さんが遭遇した事故のサポートを行う担当者は、患者さんとご家族の、傷害を受けたことによって生じる気持ちや、今後の治療や予後への不安について、具体的に聴取し把握しておくべきです。患者さんが説明や謝罪を受け、医療過誤の再発防止に向けた取り組みの確約を得ていたとしても、事故による心の傷や今後の治療に対する不安に対して心のケアが必要な場合もあるでしょう。その事故への対応を担当する医療提供者チームでの評価・検討や、患者さんやご家族との話し合いを通じた決定にそって、ソーシャルワーカーや臨床心理士、精神科医による心のケアが必要となることもあるでしょう。

 

2. 医師は治療によって被害を受けたと主張する患者さんに対しては、その症状が患者さんの疾病から生じる合併症のように見える場合であっても、丁寧に対応しなければなりません。治療によって患者さんに危害が及んだリスクがあることから、そうした主張は真剣に考慮されるべきです。医療提供者が知らない情報を患者さんが知っていることもあるでしょうし、患者さんが臨床状況について必ずしも完全に理解していないこともあるでしょう。もし、患者さんの心配が根拠のないものであるとしたら、不足がなく、そして共感的な説明が何よりの治療法です。無視されることは患者さんにとって耐え難い苦痛であり、治療の遅れをもたらすこともあります。

 

3. 傷害を受けた後の対応として、医師にとって重要なことは、ケアを継続して行うことと、治療上の良好な関係性を維持することに腐心することです。時に、患者さんも医師も、互いに距離をおきたいという自然な感情を持つことがあるかもしませんが、(通常)傷害を受けた後の患者さんとご家族は、通常以上のサポートを必要としています。通常以下ではないのです。

 

4. いつでも質問や苦情、不安について相談できる人もしくは機関の、名称・電話番号・連絡先を、患者さんとご家族に伝えておかなければなりません。これらの連絡先には、病院内・病院外からのサポートやカウンセリングに加えて、経済的な相談ができる人物も含まれます。経済的な懸念が精神的不安を引き起こすかもしれません。精神的および経済的サポートの調整については、医療ソーシャルワーカー部門の担当者が最も適切に対応することができるでしょう。治療チームが事前に患者さんとご家族へのサポートについて話し合っておくことが大切です。

 

5. インシデント(医療事故)発生後、事故の分析結果が出るまでの間は、病院や医師に対する支払いは放射線治療や心臓治療といった「補助的サービス」を含めてすべて、一時停止されるべきです。このような重大な時期に請求書を受け取るということは、患者さんにとって侮辱とも取れる行為で、患者さんの失望感を増し、さらには、組織として状況に適切に対応しているとの信頼も失わせることになるかもしれません。

 

6. 医療機関は、回避できたはずの傷害に関連して生じる短期的費用に対する経済的サポートの方法について調査しなければなりません。払い戻される費用の種類、資金源、提供する権限を有する者、提携医療機関の中または間で一貫した取扱いをすることの重要性を明確にすることなどは、重要な事項です。経済的支援を行う場合、医療機関は速やかにそれを提供すべきです。事故後においては、提供する内容が、託児費用であれ障害補助サービスであれ、経済的困難を緩和するものであれ、迅速な対応が決定的な違いをもたらすのです。

 

7.  「無過失補償」や「迅速提供制度(early offer)」とも呼ばれる、長期障害や継続的な支出に対する保険会社による補償支払いを提供することの妥当性についても、慎重に考慮する必要があります。補償すべき事象の範囲、事務処理方法の構築、患者さんが保持する法的権利の範囲、実現可能な(補償)システムが州全体として採用され法的に義務付けられるべきかどうか、などを含めて、解決すべき事柄がたくさんあります。

 

 

〔要点5〕患者さんとご家族を支える

・患者さんとご家族に、傷害をどのように受け止めているか尋ねましょう。

・患者さんのどのような心配事も真剣に受け止め、徹底的に対応しましょう。

・患者さんやご家族との治療上の信頼関係を維持しましょう。

・患者さんやご家族に、治療上または経済的な相談と支援を受けることができる窓口の連絡先を、教えましょう。

・事故の分析結果が出るまで、すべての医療費請求をいったん保留しましょう。

・経済的サポートを提供するために、どのような手段が取れるか詳細に調べましょう。


4章 患者さんとご家族へのフォローアップ

 

事故で傷害を受けた患者さんに対して、退院後も、質問や相談の機会を与えることは重要なことです。患者さんは下記を享受する権利があり、享受すべきです。

 

・再診の具体的な予定日時

 

・事後的な相談の具体的な予定日時

 

・継続的な心理的サポートや社会的サポート

 

・事故調査、再発防止策の最終的な結果についての報告。多くの場合、事象の分析は患者さんの退院日までに完了していません。調査結果は可及的速やかに報告される必要があります。

 

理由付けと根拠

患者さんが重大なインシデント(医療事故)の後に退院する時、患者さんはその事故から生じた恐れや不安を持ち続けています。のみならず、新たな身体障害、痛み、将来への不安を持ちながら外の世界に向き合わなければなりません。患者さんへの心理的・社会的サポートの必要性は、入院中よりも増すかもしれません。

 

しかし残念ながら、退院後に患者さんが受けられる支援、サポートは入院中と比較して非常に少なくなっています。往々にして、「退院」という言葉は、病院にとって、患者さんの福祉にこれ以上責任がないということを意味するものでしかありません。このことは、一部の患者さんにとっては、身体的・精神的に耐えがたい苦痛となるでしょう。見捨てられるという感覚が、既に生じている怒りや不満に加えて生じることになります。患者さんとご家族は継続的なサポートを必要としています。

 

これらの事象のフォローアップを適切に行いたいのであれば、患者さん(もしくはご家族)に継続的なケアを行ったり、内部調査で明らかになったすべての事実と実施された再発防止策の最新情報を提供する、フォローアップ・プログラムなどの仕組みを、組織として構築しなければなりません。

 

推奨されること

1. 当該事故についてこれまで相談に関わっていた主担当者に容易に連絡できるよう、患者さんとご家族に、適切な名刺と電話番号を渡さなければなりません。

 

2. 患者さんの臨床状態を確認するとともに、内部調査で判明した事象と実施されたすべての改善策の最新情報を提供するために、患者さん(もしくはご家族)に対するフォローアップ・プログラムを構築するべきです。このような接触は、その場しのぎに行うのでなく、定期的に日程を決めて、患者さんやそのご家族に対する積極的な予備交渉として行われるべきです。

 

3. 特に、非常に多くのフォローアップ情報を伝える必要がある場合には、患者さんの自宅訪問も必要かもしれません。もしくは、交通手段や食事、妥当であれば1泊の宿泊など、患者さん側に必要なことを無償で提供した上で、患者さんとご家族に病院への再度の来院をお願いすることもできるでしょう。

 

4. 精神的・社会的サポートも必要に応じて提供しなければなりません。

 

5. 傷害に起因する費用の継続的な補償を提示することもあります。患者さんに責任のある担当者は、これら(補償)について適切に調整・対応できなければなりません(前章を参照)。

 

 

〔要点6〕患者さんとご家族へのフォローアップ

・退院後の連絡をスムーズに行うために、患者さんに連絡先を知らせましょう。

・患者さんおよびご家族に対するフォローアップのための、複数回の打ち合わせを計画しましょう。

・フォローアップすべき情報が非常に多い場合には、患者さん宅の訪問を予定しましょう。

・精神的および社会的サポートを行いましょう。

・必要な場合には、傷害に伴う支出を補うための経済的支援を継続して行いましょう。


2部 医療従事者の経験

 

5章 医療従事者への支援

 

 有害事象の発生後は、患者さんやご家族と同様に、医療従事者もまた、精神面においても業務面においても、非常に大きな影響を受けます。医療従事者に対して、彼らが立ち直り、患者さんへのコミュニケーションと謝罪を効果的に行い、そして速やかに専門業務に復帰できるような、制度化された支援が提供されるべきです。

 

理由付けと根拠

起こした過誤が重大であれば、なおさらに医療従事者は有害事象による強い影響を受けます。しばしば、医療従事者がこうした事故の“第2の被害者”であることは認識されておらず、周囲からの理解や支援もほとんどありません。系統立った支援システムがないことは、有害事象後における患者ケアを提供する医療従事者の能力に、長期的な悪影響を与えます(文献5、21〜23)。

 

一般的に、医療従事者に対する組織化された支援体制が必要であることは、医療従事者自身においても、医療機関においても認識されていません。その理由は複雑です。医療従事者は、強くあること、客観的であること、また病気によって打ちのめされた患者さんから感情面で一歩距離をおいていることを期待されているという、医療の文化とも関係しています(文献5)。また、事故が起こった時にケアの過程よりむしろ医療従事者を非難する医療システムと法制度にも関係しています(文献24)。さらに、医療従事者の無謬性を期待し、事故をタブー視するという事態を生み出している「まず何よりも 患者に害をなすなかれ(first do no harm)」というヒポクラテスの誓いの内面化という問題も関係しています。

 

結果として、重大な有害事象の後に医療従事者はしばしば孤立した様に感じ、深い羞恥心や罪の意識を持ってしまいます。彼らは事故について語ることや事故を報告することをしようとしなくなったり、それができなくなったりしてしまいます。こうしたことが、その後の分析や学習を阻害するのです。多くの医療従事者は、有害事象後に患者さんやそのご家族、そして他の医師と効果的にコミュニケーションをとる訓練を受けていません。だから、率直に、そして正直にコミュニケーションをとることが大変難しいかも知れません。

 

医療従事者が医療事故に備え、発生時には迅速な対応を行うためには、包括的で制度化された支援システムが必要です。こうした支援は、十分なコミュニケーション(情報開示)と謝罪をするという方針を組織が受け入れるかどうかにもかかっています。

 

推奨されること

1. 病院は、「極めて異常な事態を経験した後に、当然感じるであろうストレスを感じているごく普通の人への援助(救済措置)」(文献25)を提供するためのプログラムを策定する必要があります。その目的は、医療を提供する専門職にある人々が有害事象のストレスに対処できるようにすることです。そうすることによって、医療従事者が患者さんへより良いケアを行うことができ、また、医療従事者も立ち直りをすることができ、さらに医療従事者が通常の生産性を伴って仕事環境へ気持ちよく復帰できるようになるのです。

 

2. 医療従事者が必要とすることは多様であるので、支援システムは、個人カウンセリングとグループカウンセリング、短期カウンセリングと長期カウンセリングの両方を含めた、多様な提供内容を含んだものでなければなりません。

 

3. 管理上の方針としては、医療従事者が立ち直るために、必要であれば、職責を調整したり休暇を取れるよう(その職務遂行能力に見合った適切な職場を提供したり、希望すれば休職できることを)保証しなければなりません。

 

4. 医療従事者がチームとして有害事象を報告するために必要な系統立てられた支援体制が整備されるとともに、診療録に事故を記録するための指導助言がなされなければなりません。

 

5. インシデント(医療事故)直後の大変感情的になっている時期の患者さんやご家族とコミュニケーションをとるよう指導することは、共感し合う関係と信頼関係の維持において、大変重要でしょう。

 

6. 同僚が“第2の被害者”となった時にどのような支援が可能であるかについて、医師・看護師・その他の医療従事者に対してのみならず、部門の責任者や管理者に教育する研修プログラムを開発する必要があります。

 

7. 最終的に、医療従事者は、ピア・レビュー(同業者による相互評価)、医療品質保証改善活動(QA/QI)、根本原因分析(RCA)プロセスへのサポートから恩恵を受けることになります。その支援としては、上記の過程でなされる指導だけでなく、事故そのものに対する直接的なサポートも含まれるでしょう。

 

 

〔詳細は付録Cを参照ください〕

 

 

〔要点7〕医療従事者への支援

・事故に巻き込まれた医療従事者への支援を提供するプログラムをつくりましょう。

・いろいろな要望に沿う多様な支援サービスを提供しましょう。

・必要に応じて、医療従事者の職務遂行能力に見合った適切な職場の提供や休暇の取得を促しましょう。

・系統立てられた事故の報告や記録手順を整備しましょう。

・患者さんやご家族とコミュニケーションをとることを、医療従事者に促しましょう。

・ピア・レビュー(同業者相互評価)、医療品質保証改善活動(QA/QI)、根本原因分析(RCA)の手順を医療従事者に教育しましょう。

 


6章 訓練と教育

 

医療機関は医療従事者にインシデント(医療事故)を扱うための教育、訓練と方策を提供する責務があります。悪い知らせを伝える訓練は、最も重要なことです。

 

 多くの医療提供者は悪い知らせを効果的に伝え、謝罪し、悩んでいる患者さんに助言するのに必要な技能を十分に教育もしくは訓練されてきませんでした。その結果、インシデント後の患者さんを思いやり、効果的に対話することがしばしばうまくできていません。医師や看護師やそのほかの職員も含む医療従事者は、患者さんに共感する能力を抑制していることが多いですが、それは、責任への不安が入り混じった彼ら自身の羞恥心と罪悪感の感情から来ています。

 

 有害事象についてどんな情報を明らかにすべきであるかという点において、患者さんと医療従事者が異なった見解を持つという事実が、問題を悪化させています。その結果、医師は有害事象が起きた後で、この危機的なときに誤解や信頼の亀裂を起こし、患者さんやご家族の期待に応えることに失敗するのです(文献5)。

 

 インシデントが起こったときの医療従事者と患者さんが効果的に対話することは、患者さんの幸福と、医療施設と医療従事者の信頼や信用を維持するために、必須のことです(文献26)。効果的なコミュニケーションの技能を習得することや、上手な対話ができるようにする特別の能力が何であるかを見つけることは、可能です(文献27)。

 

理由付けと根拠

特に、インシデントについての情報を明らかにするときの、思いやりがある思慮深い方法で、患者さんとご家族に効果的に対話する医療従事者の能力は、治療を行う関係を維持するのに決定的な部分です。もしそれがうまく実行されれば、不安を和らげ、医療従事者医療機関、病院に対する患者さんやご家族の信頼を高めることができます。もしそれが上手になされなければ、患者さんはさらなる苦しみを受け、信頼の絆が切れるかも知れませんし、医療過誤訴訟が増えることになります。

 

 もし、インシデントを含む患者さんのケアすべてに関して論議をする用意がなされないのであれば、この患者さんの健康の重大局面において、医療従事者は患者さんとご家族に最適な支援を実行することはできません。

 

 コミュニケーションや、不快な話題に関する議論を上手に行う能力は、医療従事者によって非常に大きく異なります。こうした技術は医学部や看護学校で教育されるべきですが、教えられていないことがしばしばです。しかしながら、それは習得することができます。

 

 医療機関は医療従事者にインシデントを扱う訓練や必要とされる方策を提供すべきです。恒常的な基礎的教育と訓練が、医療従事者のある不快な情報を伝えることに関する不安を和らげると同時に、有害事象の後に患者さんが経験することも改善するでしょう。

 

 たとえば、カイザー・パーマネンテ(カリフォルニア州の病院グループ)は、同病院ネットワークに所属する医師のために、バイエル研究所との共同研究で、コミュニケーション・トレーニング・カリキュラムを開発してきました。医療提供者ネットワークからの代表者を含む中央で作られた“教育者の教育”プログラムに続いて、個々の医療機関が地域の個々の病院文化に合わせて、そのカリキュラムを所属する医師に提供します。

 

 患者さんが被害を受けたときに必要とされる対話の技能を提供するだけでなく、このトレーニングは日常のケアにおいても、医師と患者の相互関係に役立っていることは注目に値します。そのコミュニケーションが患者さんと医師両側の関心事を認識し、一体化したとき、医師と患者さんの関係は、治療方針を共同して促進する方向に発展していきます。もし患者さんがケアの過程で被害をこうむったとしても、それまでの医師と患者さんの関係が、困難な時期に信頼と思いやりを維持するための確固たる基盤として役に立つのです。

 

推奨されること

1. 病院は、医療従事者が“事態が悪く進展したとき”に患者さんやご家族とコミュニケーションし対処することに関して、教育と訓練の計画を備えることが必要です。これらは、医療従事者(医師、看護師、薬剤師など)、上級管理職や理事会メンバーなど、それぞれの水準に合わせて設計されなければなりません。

 

2. 一貫性と(費用と必要とされる専門的知識の点からの)経済効率性から、こうした教育プログラムの開発は、医療機関全体を挙げて行なれなければなりません(ハーバード大では「危機管理財団」がこの努力を促進することができました)。

 

3. 患者さんやご家族との対話に関する技術的な訓練に加えて、医師や看護師は、自分が患者さんの重大な傷害の最も近い原因となったときに、自身の感情に対処する方法を訓練されることも必要としています。

 

4. 医師、看護師、そのほかの臨床家だけでなく、病院長や管理職も、同僚が深刻なインシデントの当事者となっている際に支援を提供する方法を、訓練される必要があります。

 

5. 理事会メンバーや上級管理職は、患者に対する透明性と説明責任に関する自らの責務、法的対応、重要性について、教育されることが必要です。

 

6.  一般原則や実践に関して継続的な教育コースが、すべての新しい看護師、レジデントを含む医師を対象に、オリエンテーション(導入教育)の一部として、提供されるべきであり、また、すべての医療従事者に毎年、それが提供されなければなりません。

 

7. 講義、ロールプレイ、対話型のウエブ学習などを含む、幅広い訓練方法が必要です。双方向的コンピューター・プログラムは、継続的教育の一部として、この目的のために開発されなければなりません。

 

8. 臨床家は多忙なため、年間講習に出席したり、技能を維持したりしそうにありません。ですから、実際に危機が起こっているときに、“必要なときに必要なものを必要なだけ”提供できる、補習講習を開発しなければなりません。

 

9. 医師は重大なインシデントに遭遇したとき、だれに連絡すれば、専門的援助を直ちに受けることができるかを知っておかなければなりません。

 

10. 危機管理コミュニケーション担当幹部は、すべての患者さんが適切なケアを受けられることを保証し、必要が生じれば他の人を指導し訓練する者ですが、そうした担当幹部に対しては、さらに広範囲な訓練がなされなければなりません。

 

                         〔詳細は付録Dをご覧ください〕

 

〔要点8〕訓練と教育

・患者さんとご家族との対話に関するプログラムを、あらゆる階層レベルで展開しましょう。

・医師と看護師に、彼ら自身の感情に対処する訓練をしましょう。

・理事会メンバーや上級管理職に、その責任に関して教育しましょう。

・すべての医療従事者を対象に、毎年、オリエンテーション(導入教育)を提供しましょう。

・多様な双方向的学習方法を開発しましょう。

・医療従事者に、“必要なときに必要なものを必要なだけ”提供できる訓練を提供しましょう。

・重大な事故が起こったら、医療従事者に専門的な援助を提供しましょう。

・危機管理コミュニケーション担当幹部を確立しましょう。


3部 医療事故の管理

 

7章 病院のインシデント(医療事故)に対する理念の要素

 

重大なインシデント(医療事故)に適切に対処するには、個々の医療機関の文化と理念に基づいた院内の枠組みが不可欠となります。それぞれの医療機関は、インシデントに対しスタッフがどのように対処するのかを明確にし、理念を文章化すべきです。その理念が目指すものは、大きく2つの側面があります。

 

・目標を設定し、傷ついた患者さんに対して、責任と共感を持って支援するケアを実施できるようスタッフへの指導を行い、患者さんの継続的な信頼を回復するにふさわしい医療行為を提供できるようにすること。

 

・医療過誤、医療事故から学び、事故の再発の可能性を最小限にするよう医療システムを変革することで、患者さんの安全性を改善すること。

 

これらの目標を実現するために、以下の理念が含まれなければなりません。

 

1. 医療機関の掲げる哲学と、医療事故を包み隠さず誠実に情報開示するという誓約を伝えること。

 

2. 有害事象が発生した時に、医療スタッフに対し、迅速に“必要なときに必要なものを必要なだけ”提供する、助言と指導を提供すること。

 

3. 不幸な医療事故に対処し、コミュニケーションができるよう、医療従事者の教育ができること。

 

4. ご家族と医療従事者が、医療システムの改善について後に話し合うことを含め、医療事故について共感的で誠実に患者さんのご家族とにコミュニケートすることを保証すること。

 

5. 必要なときには医療システムの再構築も視野に入れ、医療事故を分析し、事故から学ぶ体制をすること。

 

6. 医療事故に関わったスタッフを、感情的、専門的、法的に支援すること。

 

 

7. 必要な書類や報告書の作成を保証すること。

 

8. 透明性ある一般市民とのコミュニケーションの方法を明らかにし、将来的に予想される事故の発生を最小限にする医療システムが導入されていることを示して、地域社会の信用を回復すること。

 

9. 病院と医療機関の内部と、すべての関連する外部の規制当局の両方に対し、組織としてのコミュニケーション(情報提供)と事故報告に関して、意思決定の方法を明らかにしていること。

 

〔要点9〕病院の医療事故対策理念の要素

・オープンで誠実なコミュニケーション(情報提供)に関する誓約を伝えましょう。

・医療従事者へ、時機を得て“必要なときに必要なものを必要なだけ”提供する指導を実施しましょう。

・医療従事者に、対処とコミュニケーションに関する教育をしましょう。

・共感と誠意を持って、事故のことをご家族とコミュニケーションすることを、保証しましょう。

・スタッフに対し、感情面のサポートを提供しましょう。

・必要な書類と報告書の作成を保証しましょう。

・一般市民とオープンに対話しましょう。

・コミュニケーションや事故の報告に関する手法を開発しましょう。


8章 医療事故に対する初期の対応

 

 インシデント(医療事故)が発生したとき、さらなる害から患者さんを守るために、臨床医がまずしなければならないことは、適切な医療行為を行い、継続している傷害を軽減ことです。

 

 患者さんにとって、初期の必要な措置が施された後、臨床医は事故の詳細に注目し、その原因について知るべきすべての情報を得るよう努めなければなりません。これを信頼されるように実践するには、医療機関は次に掲げることに関して、だれが責任をとるかを特定する明確な方針を決め、それを広めていかなくてはなりません。

 

推奨されること

1. 患者さんを安定させ、傷害を和らげ、さらなる害を回避するために、必要なすべての行動をとること。

 

2. 機能していない医療従事者、欠陥ある装置、安全でない治療システム、極めて不完全なプロトコール――など、患者さんの安全を脅かすものはいかなるものでも緊急に排除すること。

 

3. 速やかに、事故につながったと見られる薬、装置、記録を保全すること。

 

4. 最初の医療提供者が機能しなかったり、その治療行為が停止させられたりした場合は、速やかに代わりの医療提供者を担当させ、その旨を患者さんやそのご家族に伝えること。

 

5. できるだけ早く、医療チームのメンバーに事故の概要を知らせ、すべてのスタッフが事故を十分に認識し、その後の患者さんやご家族とのコミュニケーションを一貫性のあるものにすること。

 

6. 速やかに、患者さんとご家族と事故についてコミュニケーションする第一責任者をだれにするか決定すること。

 

7. 有害事象に関与したスタッフの記憶が鮮明なうちに、関与した周辺状況や要因を、できる限り速やかに限定すること。この情報は、患者さんにとって緊急の治療計画をたてる上でもとても重要になりえます。

 

8. 適切な病院の管理者に、事故について報告すること。

 

 

〔要点10〕医療事故の初期対応

・患者さんのさらなる害を防ぐため、患者さんを落ち着かせ、傷害を軽減しましょう。

・適切な治療のできない医療提供者、安全でないシステム、装置といった残存する脅威を一掃しましょう。

・事故につながったと見られる薬、装置を保全しましょう。

・最初の医療提供者が機能しない場合、代役をたてましょう。

・患者さんとご家族に一貫したコミュニケーションがなされるよう、速やかに医療チームに事故の概要を伝えましょう。

・患者さんとご家族とのコミュニケーションに関して、だれが第一責任者になるかを決めましょう。

・記憶が鮮明な内に、事故の原因を調べましょう。

・適切な病院の管理者に、事故について報告しましょう。

 


9章 医療事故の分析

 

医療提供者や医療機関は、インシデント(医療事故)の調査と分析に関する基本方針や手続き、方法、専門的な知識――を身につけるべきです。分析は、徹底的かつ学際的なもので、判断を交えずに行われるべきであり、患者さんの安全を守る科学と最善の医療行為を反映している最新の方法が利用されるべきです。

 

分析の目的は、その事故に関与した多様な要因を明るみに出すことであり、可能な場合には、その事故の再発がより起こりにくくするシステムの変更をもたらすことです。このために、分析に責任を負う個人や委員会は、システムの制度的な変更に権限を有する人々と密接に連携すべきです。

 

このようなシステムの変更を実施に移し、その結果として改善が生じてきたかどうかを見極める客観的な評価がなされるよう、事故分析の仕組みを作る必要もあります。

 

理由付けと根拠

深刻なインシデントを調査し分析する必要があるのは、三つの理由によります。

 

第1に、可能な限り、将来の患者さんのために、事故の再発を防ぐことです。事故の原因として考えられるすべての要因を徹底的に調査・分析することは、システム上の失敗を特定し修正するための最初のステップです。医療安全に真剣に取り組む組織は、事故を、システムが失敗した証拠と見なします。

 

2に、有害事象によって被害を受けた患者さんは、その事故の原因は何なのか、治療のために何がなされたのかについて、可能な限り知る権利を持っています。たいていの患者さんは、同様の事故で苦しむ患者さんの発生を防ぐために講じられた措置に強い関心を持ちます。こうした情報を患者さんが受け取ることには治療上の価値があるかもしれませんが、被害を受けた個人に十分な情報を提供することの本来の意味は、倫理的な義務にあるといえます。

 

3に、医療機関は、どこか別の他の機関にいる患者さんを含めた将来の患者さんに対して、危険がどこに潜んでいるのかを特定し、可能な改善策ついての情報を提供する倫理的な義務も持っています。これが、国の強制的な報告システムの主たる目的であるべきです。これが機能するためには、施設認定機構、専門医認定機構、公衆衛生当局に報告される情報は完全かつ正確なものでなければなりません。(詳細は12章を参照してください)

 

加えて、病院は、予想される訴訟に備えて事故を徹底して理解するという、組織の内部への責務も負っています。

 

その医療機関が事故を調査・分析するための基本方針と手順を十分に確立していることが、生産的に分析し、学ぶことに不可欠です。分析を行う人々は十分に訓練されていなければなりませんし、システムの変更をもたらす権限がある立場にあるか、あるいは権限のある人々と密接に連携しなければなりません。

 

推奨されること

1. あらゆるインシデントを調査する能力を有する組織は多くないので、公式に根本原因分析(RCA)を行うかどうかを決める、医療事故選別基準を確立する必要があります。優先度が高い事故は、致命的なもの、重大な健康被害の原因となるもの、治療行為における重大な違反、医療チームのメンバーにより調査が要請されるもの――です。高度の傷害リスクがあったり、教訓に富んでいたりするニアミスも、また分析されるべきです。

 

2. 組織のリスクマネジメントの部門は、インシデントの調査を実施または指揮し、調査過程の機密性とピアレビュー(同業者による相互評価)の擁護を確保するべきです。

 

3. 医療機関の医療スタッフに関する規則は、根本原因分析(RCA)に参画する医師や医療提供者に、ピアレビューによる擁護を盛り込むべきです。組織としての学習を高めるために、医師と管理者は、分析過程の機密性とピアレビューを遵守しつつ、望ましい場合にはいつでも、根本原因分析を要請あるいは指揮することを奨励されるべきです。

 

4. 根本原因分析の過程は、上級スタッフメンバーによって推進されるべきです。彼らは、当該事故に直接関与しておらず、罰則を課すことを前提としない、協力的な態度で、客観的に議論を進めていく人でなくてはなりません。リスクマネジメントのスタッフ、患者安全担当のリーダー、医療の質を改善する部門のリーダーや臨床のリーダーはすべて、このような役割を遂行できるように訓練されるべきでしょう。臨床やシステム分析の専門家の参加も、組織として、事故の状況を徹底して理解するために不可欠です。

 

5. 事故原因の分析の参加者には、事故に関与した医師やその他のスタッフを含むべきです。事故に関与した参加者はすべて、事故の要因を考える上で、きるだけ多様な観点からの情報を共有すべきです。管理者や部局長や部門の責任を負う人々を含む指導者たちも、適切な改善策が最後まで遂行されることを確実にするために参加すべきです。

 

6. 患者さんの安全は進化していく基本原則です。最善の分析戦略と分析技術は、時とともに変化します。組織は、医療事故の分析と介入の基本設計に関して最善の利用可能な手法を取り入れるべきです。

 

7. 通常、患者さんとご家族は根本原因分析には参加しませんが、事故の事実関係と状況についてインタビューされるべきです。また、彼らに継続的に情報提供がなされるという組織の約束を知らされるべきです。

 

8. 深刻な事故とすべての根本原因分析の結果は、組織内で認識が浸透するための重要なステップとして、上級医療責任者と管理部門の責任者、評議委員会に報告されるべきです。

 

9. 医療機関は、根本原因分析の結果を反映した改善策が実施され、その改善策に関わる関係者に情報のフィードバックがなされることを保証する仕組みを確立する必要があります。すべての部門が説明責任を果たすための良いシステムをもっているわけではないので、勧告されたシステム的な変更が高い優先度で受け入れられているか、実際に変更がなされているかの追跡が行われているか、その変更の有効性に関する評価がなされているのか、こうしたことを確保する別の仕組みを確立することも必要になるかもしれません。

 

10. 有害事象分析の対応の結果としてなされるシステム的な変更は、予期せぬマイナス効果をもたらすかもしれません。したがって、いかなる大きなシステム的な変更も、有効性とともに、変更に伴い起こりうる、好ましくない影響を監視する計画を含むべきです。

 

11. 根本原因分析から得られたデータは、事故の類型と傾向を明らかにし、改善運動の優先順位をつけるために、集計され追跡されるべきです。

 

 

〔要点11〕医療事故の分析

・根本原因の分析を公式に行うべき事故の選定基準を確立しましょう。

・リスクマネジメントの部門に事故の調査を実施させましょう。

・根本原因分析の参加者のために、ピアレビュー(同業者による相互評価)による擁護を確保しましょう。

・事故に関与していない上級スタッフメンバーに、根本原因分析(RCA)を促進させましょう。

・事故に関与しているすべての医療従事者を参加させましょう。

・事故の分析と介入の基本設計には、最善の手法を取り入れましょう。

・根本原因分析のため、患者さんとご家族にインタビューしましょう。

・根本原因分析の結果を、組織の幹部と理事会に報告しましょう。

・改善策が実施されることを保証する仕組みを確立しましょう。

・システム的な変更がもたらす有効性と起こりうる好ましくない結果の両方を監視しましょう。

・改善策に優先順位をつけるために、根本原因分析で得られたデータを集計し、追跡しましょう。

 


10章 文書化

 

インシデント(医療事故)発生後、しかるべき医療従事者がその事故に関する診療情報を完全に正確に事実に基づいて診療記録に記入しなければなりません。患者さんに対して行ったケアや継続中の治療計画についても記入すべきです。

 

患者さんやご家族とのコミュニケーションもすべて文書化しなければなりません。会話をした場所、日時、会話をした人、会話の内容、患者さんの反応、そして患者さんが示した理解度、患者さんや医療提供者・医療機関のスタッフが次に行うべき措置も文書化します。

 

理由付けと根拠

文書化は、患者さんに対して適切なケアを行うためやインシデントからの学習を促すためにも重要ですが、後日、法律上あるいは規制上の処分が問題となった際、正確な記録を提供する上でも必要不可欠です。

 

深刻な有害事象の後にコミュニケーションが混乱し対立関係になることがあります。これを防ぐためには、正確で完全な事故に関する情報、患者さんの臨床経過、患者さんやご家族とのコミュニケーションの内容を関係者全員が入手できるようにすることが重要です。

 

文書化は、後日、訴訟で履歴情報として参考にされる際にも役に立ちます。

 

関係者とのコミュニケーションを通して文書を仕上げることがありますが、こうした場合、インシデントに関する患者さんやご家族との話し合いの文書化に対し何ら懸念する必要はありません。適切な文書化は、患者さんと医療提供者双方の利益となり、患者さんへの良きケアを促すことにもなるのです。

 

 

推奨されること:(米国ヘルスケア・リスク・マネジメント協会=ASHRM 2001年から)(文献10)

1. 事故に関する臨床についての詳細事項は医療ケアチームのなかで最も関与し熟知した者が記録するべきで、その記録には次の点を入れる必要があります。

・日時や場所など事故の客観的な詳細記録

・事故発生直前の患者さんの容態

・医療介入と患者さんの反応

・医師の届出

 

2. 患者さんやご家族とのコミュニケーションの第一責任者に指定された者は、議論の後、できるだけ早く患者さんやご家族と話すべきです。この第一責任者とは、事故に関わった医師あるいは当該医療サービスの主治医が当てはまるでしょう。(第2章B 20ページをご参照ください)

 

3. 文書化には次の点を入れる必要があります。

・話し合いの日時、場所

・話し合いに出席した人の名前と関係

・事故に関する話し合いの内容

・患者さんの反応と患者さんが示した理解のレベル

・患者さん、ご家族あるいは法定代理人と共有してきた追加的な情報(適切な場合)

・援助の申し出とそれに対する返答

・患者さんやご家族からの質問とその質問に対する返答

・次第に明らかになっていく情報を患者さん、ご家族あるいは法定代理人と共有することを記した覚書

・患者さんや医療従事者、医療機関のスタッフが次にとるべき措置

・その後にした会話

 

4. 文書化に際して、他の医療提供者を侮辱するような意見や独善的な記述は避けなければなりません。


11章 報告

 

インシデント(医療事故)は管理者、リスクマネジメント担当者やその他の関係者にすぐ報告しなければなりません。そうすることで、適切な治療と患者さん・ご家族とのコミュニケーションが保障され、組織的な学習行動に結びつくからです。報告は、州公衆衛生部(DPH)、州医師認定審議会(BRM)、米食品医薬品局(FDA)、米国医療施設認定合同委員会(JCAHO)のようなさまざまな外部の規制当局による具体的な規制を遵守するためにも必要不可欠なものです。

 

患者さんは、規制当局に対してなされた報告を知らされなければなりません。

 

一定のインシデント、特に後日医療過誤請求や補償対象になりそうな場合は、医療提供者と病院は、責任補償を請け負う保険会社にそのインシデントを知らせる義務があります。

 

理由付けと根拠

インシデントから学習する際、報告が第一ステップとなります。安全対策を熱心に行っている病院では、報告から全面的な調査を行い、事故に潜むシステムの障害を明らかにします。そうすることで、患者さんへの傷害の可能性をできるだけ低くするようシステムの再設計を行うのです。

 

こうしたやり方は、「有害事象や過誤は欠陥そのものではなく、システム上の欠陥から出た症状である」との認識に基づいています。報告することにより調査の「とっかかり」が得られ、システム上の欠陥の分析につながるのです。そうした分析をうまく行うことが本質的なシステムの改善につながるのです。

 

州公衆衛生省(DPH)、州医師認定審議会(BRM)、米食品医薬品局(FDA)、米国医療施設認定合同委員会(JCAHO)のような外部の規制機関への報告は、免許や認定の取得上必要ですが、インシデントから得られた教訓が他の医療機関に広く共有されることもまた重要なことです。たとえば、マサチューセッツ州の公衆衛生省、医師認定審議会は、報告されたインシデントから得た安全に関する警告や勧告を、定期的に州内にある医療機関向けに発行しています。JCAHOは「センチネル・イベント(警鐘的事故事例)に対する警告」を発信することを通してこのような教訓を知らせています。米食品医薬品局(FDA)のような規制機関も、緊急是正措置を必要とする特に危機的な状況を特定するという監督機能を果たすため、報告を求めています。

 

 

推奨されること

1. 病院は次のような内部報告システムを持つ必要があります。

・インシデントの通知を受ける個人あるいは部署が特定されている

・インシデントがどのように報告されるべきかが特定されている

・だれに報告義務があるかが明確になっている

・インシデント報告後の流れが明確になっている

 

2. 報告システムはすぐ対応できるものでなければなりません。例えば、報告が調査や可能な是正措置につながることを報告者が理解していなければなりません。

 

3. 報告システムが「非難や懲罰を受けるリスクがなく安全である」と、インシデントの報告者に理解されていなければなりません。

 

4. さまざまな規制機関の報告義務に見合うよう、インシデントを正しく報告する手順を病院は踏まえておかなければなりません。これは保険会社に対して病院の信用義務を果たすためにも必要です。

 

5. インシデントの中にはメディアの関心をひきつけるものもあるため、病院の広報担当部署は深刻な事故を迅速に知らされるべきであり、情報への要請に対して的確な対応が図られるようにしなければなりません。

 

 

〔要点12〕報告システムについて

・報告を受ける人を特定しましょう。

・どのようにインシデントを報告するか、明確にしましょう。

・報告義務者を決めましょう。

・インシデント後の流れを明らかにしましょう。

・報告を、調査や是正措置につなげましょう。

・報告することに関して安全保障がなければなりません。

・監督者への報告義務を担保するような手順を備えましょう。

・広報担当部署へ連絡しましょう。

 


付録A

 

患者さんとコミュニケーションする際の言葉遣い

 

 有害事象の患者さんへの情報開示に関するガイドラインを吟味した後でも、対話モデルが役に立つかも知れません。医療過誤が起こったときには、例えば下記のように話します。

 

「なにが起こったか話させてください。あなたが受けるはずだったパミドロネートの変わりに、抗がん剤であるカルボプラチンを投与してしまいました」

 

「あなたの健康にこれがどんな影響があるかお話し合いをしたいのですが、まず、謝罪をさせてください」

 

「申し訳ありません。これは、起こってはならないことです。今のところ、なぜこんなことが起こったのか、まだ正確なところは分かりません。しかし、何が起こったのかを見つけ出し、同じことが2度と起こらないよう、できる限りすべてのことを実施することを、お約束します。なにか分かったことがあれば、分かり次第、お知らせします」

 

「改めて申し上げますが、こんなことになって大変、申し訳ありません」

 

「さて、あなたの健康への影響ですが、投与されたのは通常のカルボプラチンの投与量のごく一部でしたから、この投与による有害な影響があることはまず考えられません。それでも、今後、数週間あなたの様子を注意深く見守りたいと思います。全量投与を受けた場合には、・・・・・・といった副作用が予想され、・・・・・・といった方法で経過観察が行われ、・・・・・・といった対処をします。明日、また診察させてください。そして、これからできることは・・・」


付録B

 

患者さんとご家族とのコミュニケーションの1事例研究

 

スミス博士は42歳の患者で、休暇を過ごしている間に乳がんの再発が心配になりました。その結果、休暇から早く帰り、ボストン市のダナ・ファーバーがん研究所で検査を受けました。診断の結果、彼女は乳がんが再発しており、肝臓に転移があることが分かりました。スミス博士は治療を始めることを強く希望し、臨床治験の参加者に選ばれました。彼女はこの臨床治験に参加した初めての患者で、1回目の抗がん剤治療は副作用もなく行われました。3週間後に2回目の抗がん剤治療のために病院を受診したとき、彼女は自分の臨床腫瘍専門医に少し悪くなっている感じがすることを伝えました。同じ日の夜、この腫瘍専門医は治験薬剤師から、彼女の1回目の治療薬は希釈剤だけで有効な抗がん剤が入っていなかったことを、電話で報告されました。

 

腫瘍専門医はこの過誤を患者さんに開示することが必要だと気づいて、スミス博士の家の近くに住んでいたことから、彼女の家に行く決心をしました。腫瘍専門医はスミス博士の家を訪れることで、彼女が不要な病院受診をする必要がなくなると思いました。彼は過誤を明らかにして謝罪しました。彼は長期予後への悪影響を示すデータはないことを伝えました。スミス博士夫妻は、今回の過誤が再び他の患者さんに起きる危険性をできるだけ小さくするために、この治験薬の投与までの過程を変更するように要望し、これに加えてある種の賠償を求めました。また、当初からスミス夫妻は、自分たちが生来からも今回の医療経験からも、訴訟好きな人間ではないことを非常に明確に示して、弁護士を立てないことにし、また、このことを言い回ることもしませんでした。

 

この医療事故に対応し、医師・看護師の幹部はスミス夫妻と面談し、今回の過誤についての夫妻の関心事や、賠償の希望について話し合いをしました。

 

賠償の希望に応えるため、今回の事例を評価する目的で、内部チームが広い範囲の病院各部門代表と面談をしました。出席者は、主治医である臨床腫瘍専門医、賠償責任保険会社の代表者、法律顧問、安全管理担当者、そして、医師、看護、管理部門それぞれの幹部、さらには病院の倫理問題の担当者でした。内部チーム会議では、患者が追加受診に関連した自己負担費の支払い以上の補償を求めていたことにいささか驚きました。内部チーム会議ではこの患者が何を求めているのか考えようとしましたが、結局、直接患者さんに尋ねてみることにしました。また、医師、看護、管理部門の幹部が患者夫妻に直接会って話し合うべきだという結論になりました。主治医の腫瘍専門医は患者が遠慮をせずに関心事を述べられるように、また、今回の医療事故が現在行っている治療を進めることに関して患者夫妻との関係に影響しないことを望み、その話し合いに参加しない方がよいと考えました。

 

スミス博士夫妻との話し合いは、今回のできごとに対する考察、間違いを引き起こす原因になりうる要素や、間違いを減らすための今後の計画について、十分かつ率直に話し合われました。それに加えて、夫妻になぜ金銭的補償を求めているのか尋ねました。夫妻は、金銭的補償が、病院側が患者さんとご家族に対して過誤を起こし精神的苦痛を及ぼしたことを理解したと示す、しかるべき意思表示だと感じていることを説明しました。請求金額は控えめで明らかに“証拠”という意味でした。病院側は補償金の支払いで和解を申し出ました。

 

スミス博士夫妻はこの申し出に同意しました。スミス博士は医師や医療機関に満足しているのははっきりしていました。彼女は同じチームで治療を続けることを望み、実際、そうしました。このできごとが和解に至って解決したことから、話し合いを持ったことが患者夫妻側と医療機関側の双方にとってよかったと考えられました。


付録C

医療従事者支援の要素

 

1. 感情面の支援

医療における有害事象が起こったときは、さまざまな医療サービスを巻き込みつつ、強烈な感情や非常に興奮した行動が引き起こされるものです。このような状況で医師に対する効果的な支援を見極め、実行し、監督するには、支援プロセスを明確に定義する必要があります。一方で、医療事故の状況や環境はさまざまですから、適切な感情面の支援を最大限に行うためには柔軟な対応が必要です。これらがきちんと行われるためには、十分な資格のあるグループが、医療事故における対応の優先順位を決定し、適切な支援を調整するように、初動対応を行うグループとしての訓練を受けるとともに、実際に対応できるようになっていなければなりません。初動対応者は、危機管理状況での助言経験を持っており、1日24時間・週7日、つまりいつでも対応できるようになっていなければなりません。

 

感情面の支援のタイミングと期間については、医療事故に巻き込まれた医師のそれぞれのニーズに合わせて変えるべきでしょう。これには、「被雇用者支援プログラム」(EAP)、危機管理、精神分析など、医療事後が起きた直後に医療機関によってその場で短期的になされる支援が含まれます。長期間の支援としては、病院と提携したサービスや独立したサービスがあり、個人のカウンセラーや「医療によって引き起こされた精神的外傷支援サービス」(MITSS)などの組織によって、病院外で実施されます。短期と長期の支援は互いに関連させた方が有益であり、それによって医療従事者は支援プロセスの全体にわたって、とぎれなくサービスを利用することができます。

 

有害事象によって精神的影響を受けた医療従事者がこれらのサービスを受けて本当に効果があがるためには、提供される支援形式が医療従事者にとって快適なものであることが重要です。これがうまくいくには、事前に、利用できる支援サービスと有害事象への対応の仕組みを医療従事者に教えておくことが、必要不可欠の要素でしょう。感情面の支援に対するニーズは人により違うため、医療従事者が提供される支援サービスと連絡をとり続けることが、医療従事者が支援を必要と感じるときにいつでも介入ができるようにするために重要です。それぞれの医療従事者が支援介入を受け始め、接触を続けるためには、それぞれの部署ごとに支援者を選定しておくことも助けになるでしょう。また、医療従事者にニーズがあり抵抗感がなければ、グループセッションと共に個人カウンセリングを行うのも有効です。

 

有害事象によって医療従事者が受ける感情的な衝撃は、医療現場で安全に自分の役目を果たすという能力にも影響を与えます。感情面の支援は、医療従事者のこのような有害な後遺症を最小限に抑え、通常業務にタイミングよく元気に復帰する手助けになるのです。感情面の支援に加えて、医療機関側は、精神的影響を受けた医療従事者が通常作業の再開に苦痛を覚えなくなるまでの休暇や休職、あるいは他の医療の仕事に従事することの許可、といったさらに進んだ方針を考えるべきでしょう。

 

2. 事後処理の支援

医療有害事象に対する支援活動は、それに関わった医療従事者が事故の確認・評価を効果的に行えるように手助けするサービスも含めるべきです。事故に関係した事実を細部まで把握することは、患者さんやご家族と信頼関係を築きつつ、一貫したコミュニケーションを保つうえで不可欠です。また、そうした事実の把握は、再発を防ぐために組織として共同で事故から最大限に学ぶためにも大切なことです。感情面の支援と同様に、24時間体制でいつでも動きはじめることができる組織化された手順を、確立しておくことが重要です。事故に関わった医療従事者から報告を受けるのは、事故後、短期間の内(24〜48時間)に始めるようにすべきです。また、事故の状況または医療従事者の精神状態によって、1人あるいはグループ単位のカウンセリングを行うべきです。

 

事故を正確に文書化することは、患者さんやご家族との率直なコミュニケーションを築くのにも役立ちますし、事故後に患者の安全性を向上させるための確実な基礎にもなります。なんらかの事故が起きる前に、医療従事者には教育を施し、必要知識にもアクセスできるようにしておくべきです。また、いったんなにか事故が起こったときには、直接的な支援が役に立つことでしょう。文書化は事故が起こったらなるべく早く、関わった医療提供者の、時間的経緯と細部についての記憶がはっきりしているうちに行われるべきです。

 

患者さんやご家族との最初のコミュニケーションは、信頼と透明性のある関係を築き、保つ上で大切な時期です。医療事故に巻き込まれるということは、いつでも、また誰にとっても、気まずく、感情的になりやすく、居心地の悪いものです。したがって、もし医療従事者がこうした状況に対処する訓練や指導を受けていなかったら、どんなに善意で対処しても、誤解されたり、あっという間に相互コミュニケーションが悪化する結果につながる可能性があります。医療従事者は事前に、有害事象の際に必要な効果的コミュニケーション・スキルについて訓練を受けるべきで、また、有害事象後のコミュニケーションを容易にするために、訓練されたカウンセラーによって教育や支援が行われなければなりません。この患者さんとご家族、医療従事者のコミュニケーションは、安心を感じられる、気持ちの良い環境で、個室において行うことが大切です。

 

事故の評価・確認の過程は、医療従事者にとってストレスが強い期間です。有害事象の発生に続いてたくさんの過程が次々と起こるので、しばしば医療従事者は、評価過程が進行しているのに、自分たちの役割と責任について何も知らされないということが起こります。事前の教育や必要知識の提供などで、通常の進行プロセスがどうなっていくか、その概観が教えられるべきです。また、事後の評価の過程では、関わった医療従事者の相談に乗って、助力する支援者がいると非常にとても助かるでしょう。


付録D

 

コミュニケーションのための訓練

 

●医療対話のための基本ステップ(文献28)

・準備

・会話をはじめる

・能動的に聴く

・聞いたことを認める

・応答する

 

●技能モデルを使ったコミュニケーション(文献26)

・準備

事実をもう一度確認しましょう

適切な同席者を決め、参加させましょう

適切な環境を準備(使用)しましょう

・対話のはじめ方

患者さんとご家族の心の用意ができているか確認しましょう

患者さんとご家族の医療知識、理解力はどのくらいか評価しましょう

患者さんとご家族の医療に対する大まかな理解力の水準を確認しましょう

・起こったことの説明の仕方

起こったことをそのまま説明

その時点で分かっている結果は何か

次に起こるであろうことを説明しましょう

患者さんとご家族の苦しみを誠実に認めましょう

・対話の締めくくり方

話したことの要約をしましょう

質問された主な項目を繰り返しましょう

継続して面倒を見ることを確約しましょう

・記録する

事故を記録しましょう

どんな議論があったかを記録しましょう

 

●コミュニケーションに関して他に考慮すべき点

・専門用語を用いないように

・文化や言語が理解の妨げになる

・ゆっくり話しましょう

・身振りに注意しましょう

・多すぎる情報で混乱させないようにしましょう。同時に、物事を単純化しすぎないようにしましょう

・質問を受ける十分な時間を確保しましょう。自分一人でしゃべらないようにしましょう。

 


付録E

 

米国医療機関合同認定委員会(J C A H O)選定

医療過誤開示 参考文献一覧

 

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「真実説明と謝罪」に関するワーキング・グループ・メンバー

ジャネット・バーンズ(登録看護師、法学士、ブリンガム・ウィミンズ病院リスクマネジメント部長)(Janet Barnes, RN, JD, Director, Risk Management, Brigham and Women’s Hospital)○モーリーン・コナー(登録看護師、公衆衛生学修士、ダナ・ファーバーがん研究所質向上・リスクマネジメント統括責任者)(Maureen Connor, RN, MPH, VP, for Quality Improvement and Risk Management, Dana-Farber Cancer Institute)○コニー・クローリー・ガンサー(看護師、理学修士 クォリティ・ヘルス・ケア・ストラテジー社代表)(Connie Crowley-Ganser, RN, MS, Principal, Quality Health Care Strategies)○トーマス・デルバンコ(医学博士、ベスイスラエル・ディーコネス病院総合内科・初期治療部)(Thomas Delbanco, MD, General Medicine and Primary Care, Beth-Israel Deaconess Medical Center)

フランク・フェデリコ(理学士、認定薬剤師、米国ヘルスケア改善協会理事)(Frank Federico, BS, RPh, Director, Institute for Healthcare Improvement)○アーノルド・フリードマン(医学博士、ダナ・ファーバーがん研究所臨床腫瘍内科専門医)(Arnold Freedman, MD, Medical Oncology, Dana-Farber Cancer Institute)○メアリー・ダナ・ガーシャノフ(患者、ダナ・ファーバーがん研究所 成人患者家族諮問委員会共同会長)(Mary Dana Gershanoff, Patient, Co-chair, Dana-Farber Adult Patient and Family Advisory Council)○ロバート・ハンスコム(法学士、リスクマネジメント財団 損失予防・患者安全部門部長)(Robert Hanscom, JD, Director, Loss Prevention and Patient Safety, Risk Management Foundation)○サイラス・C・ホプキンス(医学博士、医療安全対策室室長、マサチューセッツ総合病院)(Cvrus C.Hopkins, MD, Director, Office of Quality and Safety, Massachusetts General Hospital)○ゲーリー・ジャーネガン(小児がん患者の保護者、ダナ・ファーバーがん研究所 小児がん患者家族諮問委員会共同会長)(Gary Jernegan, Parent, Co-chair, Dana-Farber Pediatric Patient and Family Advisory Council)○ハンス・キム(医学博士、公衆衛生学修士、ベスイスラエル・ディーコネス病院 臨床有効性部門)(Hans Kim, MD, MPH, Medical Director, Clinical Effectiveness, Beth-Israel Deaconess Medical Center)○ルシアン・リープ(医学博士、保健政策研究者、ハーバード大学公衆衛生大学院教授)(Lucian Leap, MD, Health Policy Analyst, Harvard School of Public Health, Chair)○デービッド・ロバーソン(医学博士、チルドレンホスピタル、患者の医療安全対策部)(David Roberson, MD, Program for Patient Safety and Quality, Children’s Hospital)○ジョン・ライアン(法学士、弁護士、スローン・アンド・ウォル法律事務所、リスクマネジメント財団)(John Ryan, JD, Attorney, Sloane and Wal, Risk Management Foundation)○ルーク・サトウ(医学博士、リスクマネジメント財団最高医療責任者・副代表)(Luke Sato, MD, Chief Medical Officer and Vice President, Risk Management Foundation Risk Management Foundation)○フレデリック・ヴァン・ペルト(医学博士、麻酔科、ブリンガム・アンド・ウィミンズ病院)(Frederic Van Pelt, MD, Director, Out-of-OR Anesthesia, Brigham and Women’s Hospital)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本書の理念は、以下のハーバード大学医学部関連教育病院で支持されています。

 

ベスイスラエル・ディーコネス病院(BETH ISRAEL DEACONESS HOSPITAL)

ブリガム・アンド・ウィミンズ病院(BRIGHAM AND WOMEN’S HOSPITAL)

ケンブリッジ・ヘルス・アライアンス(CAMBRIDGE HEALTH ALLIANCE)

チルドレンズ・ホスピタル(小児病院)(CHILDREN’S HOSPITAL)

ダナ・ファーバーがん研究所(DANA-FARBER CANCER INSTITUTE)

フォークナー病院(FAULKNER HOSPITAL)

ジョスリン糖尿病センター(JOSLIN DIABETES CENTER)

ハーバード・バンガード・メディカル・アソシエイツ(HARVARD VANGUARD MEDICAL ASSOCIATES)

マサチューセッツ・アイ・アンド・イヤー・インファーマリー(マサチューセッツ眼科・耳鼻科病院)(MASSACHUSETTS EYE AND EAR INFIRMARY)

マサチューセッツ総合病院(MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITAL)

マクレーン病院(McLEAN HOSPITAL)

マウント・アーバン病院(MOUNT AUBURN HOSPITAL)

ニュートン・ウェルズリー病院(NEWTON-WELLESLEY HOSPITAL)

ノースショア病院(NORTH SHORE HOPITAL)

スポルディング・リハビリテーション病院(SPAULDING REHABILITATION HOSPITAL)

ボストン退役軍人ヘルスケアシステム(VA BOSOTON HEALTHCARE SYSTEM)